政権与党の交代により、「耶馬渓しのぐ吾妻峡」と上毛カルタでも謳われる群馬県上野原町川原湯に建設予定の八ッ場ダム工事の中止決定を巡り、あれこれと議論再燃。
吾妻渓谷はちょうど2年前に家族旅行の折にちょこっとだけ立ち寄った場所。(ダムに沈む村 2007/08/27 *村ではなくて町なんですが…すみません。。)
その時点ですでに架け替え道路などの工事が進行中で、歴史ある川原湯の温泉街も上流地区への移転の方向だという話だったので、個人的には「まさか今頃になって…」というのが率直な気持ち。自分は積極的な建設推進賛成派でも建設中止賛成派でもありませんが。。難しいので。
ちょうど、Amazon経由でオーダーしておいた「八ッ場ダムの闘い」が届いたので、早速読了。
著者の故荻原好夫氏は、八ッ場ダム建設予定地であり水没宣言を下された群馬県上野原町川原湯に生まれ育ち、地元の温泉旅館の主人であった方。
表題に「闘い」とあるけれど、ダム建設絶対反対派ではなくて、「中立派」または「条件付賛成派」とみなされていた方。
もっとも、冒頭から成田空港三里塚闘争に関わった方(お名前失念)の序文があったりして若干げんなり。一方で著者の荻原氏は個人的にダム建設推進派の福田元首相と深い交流があったりして、人の繋がりとはえてしてなにかと複雑。
建設省(現国土交通省)や群馬県の関係者や有識者、地元の政治家等とダム補填について折衝を重ねる内に官僚主導のダム建設のあり方や日本の都市・農村問題への疑念を深め、各方面の研究者との交流を深め協力を得ながら地元の人たちとともに新しいまちづくりを模索し続けた、長い年月に及ぶダム建設を巡る闘いの記録。
この本の初版刊行は1996年。40年以上もの長い間「真綿で首を絞めるような」「蛇の生殺し」のような膠着状態が続く中、著者自身が高齢となり、事の顛末を詳らかに後世に伝えたかったのだろうという思いがひりひりと伝わってきました。
一方の視点から書かれていることもあり、丸ごと共感するのは難しい点もありますが、深い苦悩と多数の苦労が偲ばれます。著者が関わった人物の名が率直に実名で書かれており、さらに嫌な相手は呼び捨てである点がある意味人間的。
地元住民を代表して折衝にあたった当事者ならではの「官僚主義の弊害」と一言では片付けられない複雑を垣間見ることができます。
端的に人間として悪意のある役人もいる。一方で、胸襟を開いて話し合うことができる役人もいるけれど短期間で担当者が変わってしまいそれまでの努力が水泡に帰してしまう制度悪という点もある。そして地元住民はその都度振り回されてしまう。徒労に募る虚無感。
直接顔を合わす役所の担当者の上にある見えざる大きな権力の手。見えない未来。息苦しい閉塞感に覆われ、都市化やモータリゼーションの進歩に取り残された町。徐々に人が離れ過疎化が進行する。反対派が息の根を引き取るときを待っていたかのようにダム建設が息を吹き返すだろう。まだ間に合ううちになにかしなくちゃいけない。そんなじりじりとした焦燥感。
もし自分が著者の立場だったら…と想像するだけで、胃に重たいものがつかえる気が。。
もっとも他人事として済まされる話ではありませんが。。
また、地元の方だからこそ充分に配慮された控えめな表現ですが、地元住民の間の温度差についても考えさせられました。温泉街の中心地でお土産物屋を営む反対派の急先鋒であるTさん、土建業を営むダム建設賛成派の「よその国から来た」Yさん(最初、外国人かと思いましたが借地人さんということでした)、など。
「一村まるごと移転」を希望し新たに前向きに生活を考えていこうと考えてきた著者にとって、地元住民間の激しくまたは静かな軋みは、ダム建設が持ち上がらなければ直面せずに済んだはずの厳しい現実だったのではないかと思います。
それから、本文中では政治家の関与はさらりとしか触れられていませんが、個人的には気になりました。
福田赳夫氏はダム建設賛成派である一方で、同時期に福田氏と熾烈なライバル関係にあった中曽根康弘氏は裏から手を回してダム建設反対の横槍を入れていたこととか、両者の間に挟まれた故小渕恵三氏が「困った」と著者に漏らしたこととか。同じ群馬県から選出された国会議員同士の反目が、実は八ッ場ダム建設の推移に関して一番影響力が大きかったのではないかと勘繰ってしまいますが、はて、どうなんでしょう。
しかしまぁ、いくら自民党の強い地盤だからといって、地元の意見を聞かずして八ッ場ダム建設中止をマニフェストに盛り込んだ民主党もなんだかな。
あたかも自分たちの政治力を誇示するための道具として取り上げたような印象が拭えないな。。
自分はダムが好きなので、どうしても考えが偏りがちです。とはいえむやみに大規模ダムを造ってGoとは考えませんが。
治水・利水は国家の要だと思うし、発電方式に関していえば原子力発電よりも水力発電の方が好ましいとも思うし。そんな訳でかねてから小規模で発電効率の良い小型水力発電装置を取り扱おうかと検討すること幾度か。なかなか実現まで至らないけど。
それよりも。著者が本書の後半で述べられたように、東京を中心とする首都圏の肥大化と過疎化が進行する山間の農村部という構造に抜本的な変化が生じない限り、たとえ一時的にダム開発の見直しや凍結を行ったところで、またぞろ近い将来にダム有用論が噴出し、いつまでも同じような問題が繰り返されるような気がしてなりません。どうなんでしょう。
それにしても。自分が購入した時点ですでに古本しかなく、それでも定価より若干安く購入できたのに、現時点の最安値が12,000円に跳ね上がっていてびっくり。さすがにホットな話題なんだなぁ。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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