引越しの際に本棚を整理していたら、積み重ねた文庫本の一番上に、カズオ・イシグロの「日の名残り」があり、久しぶりに再読。
忘れっぽい自分にしては珍しいことにこの物語は頭の片隅に残っているけど、良い本は何度読んでも面白いな。
(同じく引越し荷物の中から発掘されたJ.P.ホーガンの「揺籃の星」上下巻は自分でもびっくりするほど内容を一切覚えておらず、読み終えた後も「購入したまま放置しておいたのでは…」と思うほど新鮮だった。。)
「日の名残り」は、なにより訳者の土屋政雄氏による翻訳が絶品で、原文の持つ世界観はもちろんのこと、登場人物の視点の位置(クローズアップ、クローズダウン)や感情の振幅や緩急、背景にあり感覚器に訴える要素などがごく自然な美しい日本語に置換されている、と思う。
以前確か、日本語訳を読んだ後で、英語の勉強になるかなと思って原文を読み、言語が違っていても世界観が丸ごと同じで驚いた。ただ、世界観は同じでも言語は違う。英語は英語で、日本語は日本語でそれぞれにとても美しい。炎のように鮮烈で、清流のように清冽で、噛み締めるほどに味わいがあって、文学とはかくもすばらしいものなのかとしみじみ感じ入る。
「端正で瑞々しい」文章のお手本のようで、日本語訳も原文も、読みながらするりと物語の中に入り込んだような気持ちになる。
久々に感銘を受けたことに刺激されて、2006年に出版されると同時にベストセラーになったという「わたしを離さないで」を読んでみた。「日の名残り」と同じく著者はカズオ・イシグロ氏、翻訳は土屋正雄氏。
この本の解説で翻訳家の柴田元幸氏が述べているように、そして多くの感想で引用されるように「この本については予備知識がなければないほどよい」とあり、確かにまさにそのとおりだと思うので、具体的な本の内容については極力触れないようにしよう。。
圧倒的でした。
一気に読んでしまいました。
1人称で紡がれる記憶の断片が提示され、ジグソーパズルのピースを埋めていくように次第に全体像が構築されていく構造。
ひとつひとつの場面が鮮明な映像として目の前に浮かび上がり、その断片的で象徴的な出来事や印象の意味や関係性を辿り探るうちに物語に引き込まれてしまう。
完成したジグソーパズルの絵は。。。背筋がひやり。
主人公がいる世界は平行世界か近未来か。それでも架空の空想物語だとは簡単に片付けることのできないなにかが心に重く苦く残る。
それに問題の骨格だけを取り出してみたら、むしろ人間が社会的集団としての営みを始めて以来、ずっと普遍的に繰り返されている事象にも当て嵌まるような気がする。ひやり。
決して長くはない物語なのに、しかも決して声高に主張するのではなくむしろ淡々と語られていくのに、凝縮された主題の質量がずっしり。中性子星みたい。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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