Norlys(ノールリース)-日々のあれこれ
Posted by norlys - 2008.10.03,Fri
先日ぷらりと立ち寄ったブクオフで偶然「ロシア 語られない戦争 チェチェンゲリラ従軍記」(常岡浩介、アスキー新書)という本を手に取りました。
奥付を見ると初版発行は2008年7月10日。結構最近刊行された本です。ラッキー。
8月にチェチェンの隣のグルジアでグルジアとロシアの紛争が勃発するなど、その後も状況は変化し続けています。どの時点でどのような視点から書かれた文章なのかということは重要です。
この本はつまり、チェチェン紛争後、ロシアの傀儡政権(と断言されている)の元で首都グロズヌイが復興を遂げつつあり、グルジア紛争が勃発する前に書かれた内容だということ。
著者の常岡氏は世界各地の紛争地帯で取材を行うフリージャーナリスト。
1969年長崎県生まれ。早稲田大学在学中から紛争地帯を旅し、卒業後の94年からNBC長崎放送報道部記者として4年間勤務。その後、フリーランスとしてアフガニスタン、エチオピア、チェチェン、イラク、チェチェンなどの紛争地帯での取材を行う。2000年にイスラム教に改宗。
1999年11月からチェチェン紛争の取材を続け、2001年7月から11月の4ヶ月間に渡り、アブハジア侵攻作戦を行うチェチェンゲリラ軍に従軍取材を敢行。
ロシア軍の目を逃れて5000m級の峻険な山々が連なるカフカス山脈を越え、4ヶ月の間飲まず食わずで約20Kgも体重を落としたそうな。
「チェチェン勢力がなぜアブハジアに??」と、本書ののっけから自分は目がハテナ。
チェチェンとアブハジアは地理的には遠くはないけれど、直接的なつながりは薄いのでは。。と。
従軍中の時点で常岡氏は薄々気付いていたそうだけど、このチェチェン軍のアブハジア侵攻の裏側にはロシアと軍事的緊張状態にあるグルジア政府の関与が示唆されるとのこと。
(チェチェン軍が自発的に「グルジア側に恩義を受けているから、対ロシア同盟としてアブハジアに侵入して、グルジアのためにアブハジアをロシア軍の手から解放しようぜ」というのではないらしい)
なお、常岡氏が参加した作戦ではアブハジアに侵攻することは直前になってから初めて部隊に伝えられたそうな。
なるほどな。。つまりはこんな相関図なのだろか。
ロシア------ ------ テロリストとして虐殺 ------ ------> チェチェン
| ^
| |
黒海制海権保持の意図 非公式にチェチェンを支援しながらも
の元に、内部分断工作 自国の対ロシア軍事勢力として利用
| |
v |
アブハジア <------ 自国の領土としての保全を主張 ------ グルジア
^
|
アメリカ、イスラエル
斜線がうまく引けないので四角関係(+α)になってしまったけれど、ロシア-グルジアの対立は言うまでもなく。
ロシアは、グルジアがチェチェンゲリラを匿っていると以前から非難していました。
一方で、グルジアはチェチェン勢力が自国内に滞在することを見逃すだけではなく物資の補給を行いつつ、対外的には避難民以外のチェチェン人を保護している事実はないと主張。
そして、ロシアから虐殺され対立するチェチェン軍をグルジア政府は自国の領土保全のためにアブハジアに派遣した。。。と。これで、全方面の関連性が成立。
て、ね。。
大国やその傀儡政権の思惑や陰謀術数の渦がぐるぐる巻いていて、眩暈がしそう。
地域住民は徒に翻弄されつつも決して諦めることなく宗教を拠りどころとし武器を手に立ち上がり、このいつ果てるとも知れない、圧倒的な暴力の支配する戦闘の中で、殉教を願う戦士たちと著者の常岡氏は行動を共にされました。
そこで伝えられる現地の様子はあまりにも過酷で残酷。平和ボケした自分の脳みそにぐっさりと突き刺さる。
「難民とは危険な境遇からの脱出に成功した運のいい人たちのことだ。」(p.070)
「本当に悲劇的な状況に直面しているのは難民よりもむしろ、難民になれず戦争の中に取り残された人たちや、絶望の中で遂に武器をとって立ち上がった人たちだ。」(同上)
チェチェンゲリラ軍は、チェチェン人だけではなく近隣のCIS諸国や中東のイスラム教徒から構成され(常岡氏もイスラム教に改宗していたために従軍を許可されたそうだ)、イスラム教徒といってもロシアや欧米諸国が吹聴するような宗教的原理主義ではなく、その多くはごく普通の一般市民であり、決して「テロリスト」という一言で片付けられるものではないという。
もちろん一般市民といっても善良な民ばかりではなく、麻薬に手を染めている者もいれば、ロシア側に通じている者などもいる。ロシア側の密偵は巧妙にチェチェン軍内部の情報を流したり規律を乱し、チェチェン側から発信する情報はことごとく握りつぶされ、チェチェン軍の残酷性を際立たせる情報がロシアから世界に発信される。ロシア国内や周辺諸国で起きたチェチェン勢力によるテロと断定された事件も、実はロシア政府が愛国主義を煽り国内での権力を強大化し、国際世論をロシア側に与するように主導したものではないかと推測される。ただし、これらの現ロシア政権への非難を糾弾するジャーナリストたちは次々と不審死したり投獄されている。
でも、ひとたびチェチェン紛争の内部から離れると、世界で報じられる紛争の情報は極めて乏しく、厳しく制限されてしまう。もちろんロシア側の内部諜報活動や情報操作によって。
いわく、チェチェン人はマフィアであり誘拐を事業とし麻薬密売人であり中毒者であり、テロリストであり、捕虜に対して残酷な処刑を行い、ゲリラ活動によって無辜の人間を大量に殺害している、と。
けれども情報の出所を辿っていくと、どうもこれらの「噂」は巧妙に仕組まれたロシア側の罠であることが垣間見れる。ただし、それらの真相を突き止めようとする途上で多くの人たちが暗殺されてしまったり、複数の情報が錯綜して混沌としているので、真実はいつまで経っても闇の中。
自分もまた、チェチェン紛争勃発後に世界中のネットユーザーの間で話題となった「首切り動画」(未見です。ヘタレなので見れません。。)については、ロシア政府側が流布したものなんだろうとうすボンヤリと考えていました。
(おそらく現在でも日本において、「チェチェンといえば首切り動画」のような印象が植え付けられている人も少なくないだろな、とも思います。どうなんでしょう)
なので、チェチェン独立勢力によるテロ行為としてロシア政府が非難した数々の事件もロシアの裏工作によるものではないか、という説は納得できます。
同様に、「チェチェン人はマフィアとして誘拐を生業とし、次々に人を誘拐しては身代金を要求する」というロシア政府が批判するけれども、その誘拐事業にロシアのFBSが関わっている(すべてではなくとも)疑いが濃厚であるという主張も納得できます。(著者の言い分を全面的に信じることはできませんが、ロシア政府のプロパガンダよりはよほど真相に近いとも思います。)
また、常岡氏は生前のアレクサンドル・リトビネンコ氏(元FBS中佐。イギリスに亡命し、プーチン政権への批判など反体制活動を行っていたが、2006年ポロニウム中毒死という形で謀殺された)と交流があり、リトビネンコ氏へのインタビュー記事が巻末に再掲されていました。
リトビネンコ氏の言葉を通じて、また著者自身の体験や交流のあった人々のさまざまな例や証言を引いて、ロシア政府が主導し演出するチェチェン紛争の輪郭が本書の中で示唆されています。
ただ、あくまでも「示唆」の範疇を越えず、なにかを知っているのにズバリと切り込まない、そんなモヤモヤとした印象を受けることは否めませんでした。
そして、エピローグの冒頭の「本書に書くべきだったのに、書きたかったのに、書けなかったことが一杯ありました。イングーシでのFBSによる拘束の際に、彼らが日本語などの出版物を読んでしまうことを知ってしまったからです。」(p.205)という一文を見て、深く納得しました。改めて脳みそにぐっさりと突き刺さりました。
書かないのではなく、書けないという現実に。
ロシア政府から「ジャーナリストになりすましたイスラム過激派国際テロリスト」とのレッテルを貼られている常岡氏が言論の自由が保障された日本において日本語で出版するとしても、これ以上踏み込んで暴露することは難しい。もしかしたら、発表された内容を期に、辛うじて命を繋いでいる人たちの明日を奪ってしまうかもしれない。
これが私たちの生きる世界の姿です。リアルでね。
この本の中で、印象深い箇所はたくさんありましたが、特に気になったのは次の2点。
その1. 911事件へのロシア政府の関与の疑い
2004年7月に常岡氏がリトビネンコ氏にインタビューした中で、世界各地でロシアがテロリスト育成にあたったという話題が語られていました。リトビネンコ氏がFBSの前身であるKBGに所属していたときに、パレスチナ、イラン、イラク、サウジアラビア、シリア、スーダン、アイルランドにおいてテロリスト育成に関与したという極秘文書を目にしたと。
また、アルカイーダのメンバーにFBSの諜報員が含まれている、と。
自分はずっと911事件は米政府の自作自演だという説を信じてきました。
でももしも、ロシアが裏で糸を引いていたのだとしたら?
なるほど大掛かりな劇場型テロ事件のシナリオ作成についてはロシアではすでに実績がありますし(推測ですが。しかし悲しい実績だ)、911をきっかけにプーチンの外交政策が大きく変化したと言われています。
また、ロシアの国営放送局が今年の9月11日に「911はアメリカの自作自演」説を支持する番組を放映し、アメリカのプロパガンダを信じるなと強調したそうです。。
(「ロシア人はもう911の公式見解を信じない」(ASYURAソースですが、内容はまとも))
ただ、たとえロシアが裏工作を行った可能性が高いとしても、米政府がノータッチだったとは到底思えません。
アメリカの国防のシンボルであるペンタゴンへの被害は、まるで事前に仕込まれたかのように建物のごく一部に留まっていましたし。
しかしまぁ、血と肉が飛び交うスペクタクルを喜ぶ民衆とそれを操る為政者だなんて-まるで古代ローマ時代のようだな。。
2000年以上もの時間を経ても、人類はそんなにも進歩していないのか。。ちくしょう。
その2. プーチンへの見解
「大勢の友人たちを死に至らしめたり、未来を奪ったプーチンに対して、私は個人的な感情を抑えられないし、公平でいられるともいい切れないが、彼が私利私欲や保身のためにロシアの政策を決めたとは微塵も思っていない。もしそうなら、彼はまだ救われる。彼はもっと悲劇的な人物だ。」(p.199)
目の前で、離れたところで、親しい友人が命を消息を絶つというあまたの経験をし、自身もまたロシア政府のシークレットサービスに命を狙われる恐れのある常岡氏の見解です。重いです。
氏の見解は、自分自身がプーチン氏に抱く印象とたいへん近いような気がします。偶然かもだけど。
プーチン氏自身の大義があり(正義ではなくとも)、理念があり、その実現のためには数多の政敵や謀略を乗り越え、ロシアという国の舵を取る。
たとえプーチンが巨額の個人資産を築いているとしても、それだけが目的のようにはとても思えません。
(でもプーチンの最終目的はなんだ?? 「愛国心」がキーワードのひとつだと言われているけれど、さすがにそれだけじゃないだろ)
ただ、常岡氏がプーチンを評して「悲劇的な人物だ」と断定する、その理由をとても知りたいとも思います。
なぜプーチンは悲劇的なんでしょか。
富と権力を掌中に納めてもなお悲劇的だとしたら、いったいどこに人としての幸福ってやつがあるんでしょか。
最後に。エピローグの結びの言葉を引用します。
「これは物事の一面にすぎません。ただ、あまり語れることのない一面です。ロシアのカフカスという地域ではこういう人たちが生きて、死んでいったのだということです。」(pp.207-208)
あぁどうか、世界に平和を。
■Related Links:
シェルコの情報公開 (常岡氏の個人サイト)
The Chicken Reports (常岡氏のブログ)
東長崎機関 (常岡氏が参加しているフリージャーナリスト集団、主宰は加藤健二郎氏)
■Related Entry:
チェチェン再興 (2008/9/1)
思えば、あの時グロズヌイの再興した都市の写真を見て感じた違和感が発端だ。。
奥付を見ると初版発行は2008年7月10日。結構最近刊行された本です。ラッキー。
8月にチェチェンの隣のグルジアでグルジアとロシアの紛争が勃発するなど、その後も状況は変化し続けています。どの時点でどのような視点から書かれた文章なのかということは重要です。
この本はつまり、チェチェン紛争後、ロシアの傀儡政権(と断言されている)の元で首都グロズヌイが復興を遂げつつあり、グルジア紛争が勃発する前に書かれた内容だということ。
著者の常岡氏は世界各地の紛争地帯で取材を行うフリージャーナリスト。
1969年長崎県生まれ。早稲田大学在学中から紛争地帯を旅し、卒業後の94年からNBC長崎放送報道部記者として4年間勤務。その後、フリーランスとしてアフガニスタン、エチオピア、チェチェン、イラク、チェチェンなどの紛争地帯での取材を行う。2000年にイスラム教に改宗。
1999年11月からチェチェン紛争の取材を続け、2001年7月から11月の4ヶ月間に渡り、アブハジア侵攻作戦を行うチェチェンゲリラ軍に従軍取材を敢行。
ロシア軍の目を逃れて5000m級の峻険な山々が連なるカフカス山脈を越え、4ヶ月の間飲まず食わずで約20Kgも体重を落としたそうな。
「チェチェン勢力がなぜアブハジアに??」と、本書ののっけから自分は目がハテナ。
チェチェンとアブハジアは地理的には遠くはないけれど、直接的なつながりは薄いのでは。。と。
従軍中の時点で常岡氏は薄々気付いていたそうだけど、このチェチェン軍のアブハジア侵攻の裏側にはロシアと軍事的緊張状態にあるグルジア政府の関与が示唆されるとのこと。
(チェチェン軍が自発的に「グルジア側に恩義を受けているから、対ロシア同盟としてアブハジアに侵入して、グルジアのためにアブハジアをロシア軍の手から解放しようぜ」というのではないらしい)
なお、常岡氏が参加した作戦ではアブハジアに侵攻することは直前になってから初めて部隊に伝えられたそうな。
なるほどな。。つまりはこんな相関図なのだろか。
ロシア------ ------ テロリストとして虐殺 ------ ------> チェチェン
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黒海制海権保持の意図 非公式にチェチェンを支援しながらも
の元に、内部分断工作 自国の対ロシア軍事勢力として利用
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アブハジア <------ 自国の領土としての保全を主張 ------ グルジア
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アメリカ、イスラエル
斜線がうまく引けないので四角関係(+α)になってしまったけれど、ロシア-グルジアの対立は言うまでもなく。
ロシアは、グルジアがチェチェンゲリラを匿っていると以前から非難していました。
一方で、グルジアはチェチェン勢力が自国内に滞在することを見逃すだけではなく物資の補給を行いつつ、対外的には避難民以外のチェチェン人を保護している事実はないと主張。
そして、ロシアから虐殺され対立するチェチェン軍をグルジア政府は自国の領土保全のためにアブハジアに派遣した。。。と。これで、全方面の関連性が成立。
て、ね。。
大国やその傀儡政権の思惑や陰謀術数の渦がぐるぐる巻いていて、眩暈がしそう。
地域住民は徒に翻弄されつつも決して諦めることなく宗教を拠りどころとし武器を手に立ち上がり、このいつ果てるとも知れない、圧倒的な暴力の支配する戦闘の中で、殉教を願う戦士たちと著者の常岡氏は行動を共にされました。
そこで伝えられる現地の様子はあまりにも過酷で残酷。平和ボケした自分の脳みそにぐっさりと突き刺さる。
「難民とは危険な境遇からの脱出に成功した運のいい人たちのことだ。」(p.070)
「本当に悲劇的な状況に直面しているのは難民よりもむしろ、難民になれず戦争の中に取り残された人たちや、絶望の中で遂に武器をとって立ち上がった人たちだ。」(同上)
チェチェンゲリラ軍は、チェチェン人だけではなく近隣のCIS諸国や中東のイスラム教徒から構成され(常岡氏もイスラム教に改宗していたために従軍を許可されたそうだ)、イスラム教徒といってもロシアや欧米諸国が吹聴するような宗教的原理主義ではなく、その多くはごく普通の一般市民であり、決して「テロリスト」という一言で片付けられるものではないという。
もちろん一般市民といっても善良な民ばかりではなく、麻薬に手を染めている者もいれば、ロシア側に通じている者などもいる。ロシア側の密偵は巧妙にチェチェン軍内部の情報を流したり規律を乱し、チェチェン側から発信する情報はことごとく握りつぶされ、チェチェン軍の残酷性を際立たせる情報がロシアから世界に発信される。ロシア国内や周辺諸国で起きたチェチェン勢力によるテロと断定された事件も、実はロシア政府が愛国主義を煽り国内での権力を強大化し、国際世論をロシア側に与するように主導したものではないかと推測される。ただし、これらの現ロシア政権への非難を糾弾するジャーナリストたちは次々と不審死したり投獄されている。
でも、ひとたびチェチェン紛争の内部から離れると、世界で報じられる紛争の情報は極めて乏しく、厳しく制限されてしまう。もちろんロシア側の内部諜報活動や情報操作によって。
いわく、チェチェン人はマフィアであり誘拐を事業とし麻薬密売人であり中毒者であり、テロリストであり、捕虜に対して残酷な処刑を行い、ゲリラ活動によって無辜の人間を大量に殺害している、と。
けれども情報の出所を辿っていくと、どうもこれらの「噂」は巧妙に仕組まれたロシア側の罠であることが垣間見れる。ただし、それらの真相を突き止めようとする途上で多くの人たちが暗殺されてしまったり、複数の情報が錯綜して混沌としているので、真実はいつまで経っても闇の中。
自分もまた、チェチェン紛争勃発後に世界中のネットユーザーの間で話題となった「首切り動画」(未見です。ヘタレなので見れません。。)については、ロシア政府側が流布したものなんだろうとうすボンヤリと考えていました。
(おそらく現在でも日本において、「チェチェンといえば首切り動画」のような印象が植え付けられている人も少なくないだろな、とも思います。どうなんでしょう)
なので、チェチェン独立勢力によるテロ行為としてロシア政府が非難した数々の事件もロシアの裏工作によるものではないか、という説は納得できます。
同様に、「チェチェン人はマフィアとして誘拐を生業とし、次々に人を誘拐しては身代金を要求する」というロシア政府が批判するけれども、その誘拐事業にロシアのFBSが関わっている(すべてではなくとも)疑いが濃厚であるという主張も納得できます。(著者の言い分を全面的に信じることはできませんが、ロシア政府のプロパガンダよりはよほど真相に近いとも思います。)
また、常岡氏は生前のアレクサンドル・リトビネンコ氏(元FBS中佐。イギリスに亡命し、プーチン政権への批判など反体制活動を行っていたが、2006年ポロニウム中毒死という形で謀殺された)と交流があり、リトビネンコ氏へのインタビュー記事が巻末に再掲されていました。
リトビネンコ氏の言葉を通じて、また著者自身の体験や交流のあった人々のさまざまな例や証言を引いて、ロシア政府が主導し演出するチェチェン紛争の輪郭が本書の中で示唆されています。
ただ、あくまでも「示唆」の範疇を越えず、なにかを知っているのにズバリと切り込まない、そんなモヤモヤとした印象を受けることは否めませんでした。
そして、エピローグの冒頭の「本書に書くべきだったのに、書きたかったのに、書けなかったことが一杯ありました。イングーシでのFBSによる拘束の際に、彼らが日本語などの出版物を読んでしまうことを知ってしまったからです。」(p.205)という一文を見て、深く納得しました。改めて脳みそにぐっさりと突き刺さりました。
書かないのではなく、書けないという現実に。
ロシア政府から「ジャーナリストになりすましたイスラム過激派国際テロリスト」とのレッテルを貼られている常岡氏が言論の自由が保障された日本において日本語で出版するとしても、これ以上踏み込んで暴露することは難しい。もしかしたら、発表された内容を期に、辛うじて命を繋いでいる人たちの明日を奪ってしまうかもしれない。
これが私たちの生きる世界の姿です。リアルでね。
この本の中で、印象深い箇所はたくさんありましたが、特に気になったのは次の2点。
その1. 911事件へのロシア政府の関与の疑い
2004年7月に常岡氏がリトビネンコ氏にインタビューした中で、世界各地でロシアがテロリスト育成にあたったという話題が語られていました。リトビネンコ氏がFBSの前身であるKBGに所属していたときに、パレスチナ、イラン、イラク、サウジアラビア、シリア、スーダン、アイルランドにおいてテロリスト育成に関与したという極秘文書を目にしたと。
また、アルカイーダのメンバーにFBSの諜報員が含まれている、と。
自分はずっと911事件は米政府の自作自演だという説を信じてきました。
でももしも、ロシアが裏で糸を引いていたのだとしたら?
なるほど大掛かりな劇場型テロ事件のシナリオ作成についてはロシアではすでに実績がありますし(推測ですが。しかし悲しい実績だ)、911をきっかけにプーチンの外交政策が大きく変化したと言われています。
また、ロシアの国営放送局が今年の9月11日に「911はアメリカの自作自演」説を支持する番組を放映し、アメリカのプロパガンダを信じるなと強調したそうです。。
(「ロシア人はもう911の公式見解を信じない」(ASYURAソースですが、内容はまとも))
ただ、たとえロシアが裏工作を行った可能性が高いとしても、米政府がノータッチだったとは到底思えません。
アメリカの国防のシンボルであるペンタゴンへの被害は、まるで事前に仕込まれたかのように建物のごく一部に留まっていましたし。
しかしまぁ、血と肉が飛び交うスペクタクルを喜ぶ民衆とそれを操る為政者だなんて-まるで古代ローマ時代のようだな。。
2000年以上もの時間を経ても、人類はそんなにも進歩していないのか。。ちくしょう。
その2. プーチンへの見解
「大勢の友人たちを死に至らしめたり、未来を奪ったプーチンに対して、私は個人的な感情を抑えられないし、公平でいられるともいい切れないが、彼が私利私欲や保身のためにロシアの政策を決めたとは微塵も思っていない。もしそうなら、彼はまだ救われる。彼はもっと悲劇的な人物だ。」(p.199)
目の前で、離れたところで、親しい友人が命を消息を絶つというあまたの経験をし、自身もまたロシア政府のシークレットサービスに命を狙われる恐れのある常岡氏の見解です。重いです。
氏の見解は、自分自身がプーチン氏に抱く印象とたいへん近いような気がします。偶然かもだけど。
プーチン氏自身の大義があり(正義ではなくとも)、理念があり、その実現のためには数多の政敵や謀略を乗り越え、ロシアという国の舵を取る。
たとえプーチンが巨額の個人資産を築いているとしても、それだけが目的のようにはとても思えません。
(でもプーチンの最終目的はなんだ?? 「愛国心」がキーワードのひとつだと言われているけれど、さすがにそれだけじゃないだろ)
ただ、常岡氏がプーチンを評して「悲劇的な人物だ」と断定する、その理由をとても知りたいとも思います。
なぜプーチンは悲劇的なんでしょか。
富と権力を掌中に納めてもなお悲劇的だとしたら、いったいどこに人としての幸福ってやつがあるんでしょか。
最後に。エピローグの結びの言葉を引用します。
「これは物事の一面にすぎません。ただ、あまり語れることのない一面です。ロシアのカフカスという地域ではこういう人たちが生きて、死んでいったのだということです。」(pp.207-208)
あぁどうか、世界に平和を。
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自己紹介:
Norlys(ノールリース)。極光、いわゆるオーロラ。雪の降る季節と雪の降る景色がすき。趣味は編み物。週末は山を散策。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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