グルジア紛争の記事をアレコレ漁りつつ、そういえばチェチェンどうなった? ということが気になりました。
再興したチェチェン共和国の首都グロズヌイ(Grozny)の様子を収めた写真の投稿。
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・Chechnya Development - Photo Update
(Posted on 01-30-2008)
←グロズヌイの街角スナップ。
あら~。。ついこの間まで、内乱でボロボロでススまみれのアパート群と道端にたむろする人々の写真しかお目にかかったことがなかったので、いつの間にこんなことに。。という気分。
画像のデータによると、撮影日は2007年9月12日。
新しいアパートが立ち並び、街角には花が溢れ、子供たちが街の公園の噴水で遊び、道の端のベンチに腰掛た人々が談笑し、大きなショッピングモールがあり…つい10年前まで内戦で荒廃していた都市とは思えないほど、それはそれは美しい街が収めされていました。
グロズヌイの都市部の目覚ましい再興には、ロシアの積極的な資本投資とロシア軍による土木建設工事への協力があったとのこと。
なるほど。どうりでグルジア紛争の論争において、チェチェン問題が取り上げられないわけでした。西側欧米諸国としても、もはや突っ込みどころがなさそうです。
これらの写真が投稿されたのと同じ頃、2007年9月30日付けのNew York Timesに、チェチェン再興の記事がありました。
・Under Iron Hand of Russia’s Proxy, a Chechen Revival (ロシアの代理の圧制によるチェチェンの再興)
まるで奇跡が起きたかのようにここ1、2年の間で急速に復興が進んでいるグロズヌイについて記された記事。
復興の光と影について詳しく述べられています。
この記事で、特に興味深いのは次の部分。(日本語訳はテキトー。間違いだらけかも。。)
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Russia’s defeat of the heart of the rebellion in Chechnya appears to flow, in the simplest sense, from a two-stage formula: extraordinary violence, followed by extraordinary investment. One corollary has been that allegations of human rights abuses by both Russia and its local allies have been largely ignored.
チェチェン中心地での暴動に対するロシアの圧勝は、極めて簡潔に述べると次の2段階の方程式に集約される。徹底的な破壊、そして、桁外れの投資。ロシア軍と現地反乱軍双方による人権蹂躙疑惑はおしなべて無視されているのではないかという憶測のみが残る。
At the center of this formula has been Mr. Kadyrov, the rebel turned Kremlin ally who was widely labeled an illiterate bandit when he entered public life three years ago after his father, then the president, was assassinated.
この方程式の中心にはカディロフ(ラムザン・アフマドヴィチ・カディロフ)氏の存在がある。カディロフ氏は、3年前に暗殺された当時の大統領であった父親*の後継者として政治の道に入った。無教養な無法者として広く知られるクレムリンの同志に転向した反逆者である(←ロシア体制側が黒幕にいることへの皮肉)。
Mr. Kadyrov, like the republic he leads, has defied the dark projections. As Chechnya’s president since this spring, he has become a populist who has managed to embrace Sufi Islam, Chechen ethnic identity and Kremlin authority simultaneously.
カディロフ氏は、共和国のリーダーとして、暗黒面の突出を断固として退けた。今年(2007年)の春からチェチェン共和国の大統領に就任すると同時に、スーフィー・イスラム(イスラム教神秘主義者)、チェチェンの民族アイデンティティ、クレムリンの権力のすべてを等しく容認することに努める人民主義者となった。
*アフマド・カディロフ
現チェチェン共和国大統領ラムザン・アフマドヴィチ・カディロフ氏の父。
イスラム教の宗教教育を受けたチェチェンの元ムフティー(イスラム法の解釈責任者)で、第2次チェチェン紛争時に親露派政権樹立のためにロシア側のバックアップを受けてロシア連邦チェチェン共和国の大統領に就任。2004年5月9日にチェチェン独立派によって暗殺された。
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"extraordinary violence, followed by extraordinary investment" -アメとムチではなくて、ムチとアメ。
ふーむ。。。
開発に伴う軋轢や矛盾は数多くあれども、現時点ではグロズヌイの再興は概ね成功。。なんだろな。たとえ都市の一部の光景だとしても、もはや内乱で荒廃した都市とは思えないもんな。
そして、この奇跡のような都市復興はまだまだ続くんだろうな。
少なくとも、チェチェンの領土の地下にある石油が枯渇しない限り、ロシアからの資本投資が続く限り、そして現政権が安定している限り。
チェチェンの再興した姿は一種のVanity Fairであっても、内乱や紛争が続き焦土化した国土と疲弊した国民だけが残され、テロや武力抗争が絶えないアフガニスタンよりはまだマシに思えるような気もする。
ご立派な憲法や一見民主的な政府が用意されたところで、衣食住が足りなければ何が良くなったのか現地の人たちにはまったく理解できないだろうし、難民キャンプを出ていきなり自立しろと言われても困るだけだろう。
一方で、整然と典型的なまでに「ロシア化」された都市の姿は、住民の本来の願いからはちょっと離れているんじゃないかな。。とかも思ったりするし、他者に与えられることに慣れてしまうのはマズイんじゃないかとも思う。
おそらくは、今回のグルジア紛争でも、ロシアは同様の方程式を発動させる気満々なんでしょな。
グルジアからまんまと南オセチアやアブハジア地方をもぎ取った暁には、巨大な資本投資と急速な都市復興が待ち受けているんだろな。
なかなか復興が進まないグルジア国内を尻目に、ロシア側の体制についた地域がどんどん復興を遂げたら、いったいどんな事態になることやら。。
晴れて西側諸国の一員としてNATOやEUへの加盟が承認を受けたとしても、それは決してグルジアの経済的復興を約束するものではないしな。
(NATOは軍事協力だから論外として)EU加盟はまだ経済的に価値があるとしても、実は安価な労働資本を欲している西側諸国は豊かな東欧など望んではいないという現実に直面するのかもな。。
プーチンに関するWikiの項目を見ていたら、次の記述に目が留まりました。
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1997年、プーチンはサンクトペテルブルク鉱山大学に「市場経済移行期における地域資源の戦略的計画」という論文を提出し、経済科学準博士の学位を得る。この論文の内容は、「豊富な資源を国家管理下におき、ロシアの内外政策に利用する」というものだった(この論文に関しては、2007年に米国の学者が盗作説を主張するも、その後立ち消えとなる)。
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なるほどな。。
もうロシアはというか、プーチンは、最初からやる気満々なんだ罠。
チェチェンを強硬に手放さずにいたのも(第1次チェチェン紛争時のロシア大統領はエリツィンだけど)、今回のグルジア紛争も、すべては資源確保のため。さすが元共産主義国家。計画経済万歳だ。
西側諸国が汗まみれで働くことを嫌って金融工学とやらに励んで虚業に勤しんでいる間にも、ロシアは一方で着々と資源確保に動き回っていましたとさ(その割には関連産業の技術開発への投資が疎かな点が気になるけど)。
たとえ資源や人的資源を有していても必ずしも国家も国民も裕福にはなれないということを、その昔、ほんのちょこっと南米諸国の経済学史を学んだときに痛感した覚えがあります。すぐ目の上にアメリカがある国は実に不幸だな、と。飴なんて上層部の一部だけで食い潰して、国民にとっては常にムチとムチだもんな。
資源を有していて武力もあり、国際的に大国とみなされているロシアであれば、南米や中東(さらに宗教問題があるからややこしい)とは違う結論を導けるのかもしれません。
民主化を推し進め、開かれた資本主義経済を導入し、他国との協調により工業化の発展を推進するという今となっては古典的な開発経済学を学んだ者として、ロシアが見据えている方向性にはかなり興味があります。
(原始開発経済論に逆行してしまうかもしれないというパラドキシカルな状況がなんともはや。。)
まーだからといって、ロシアのやり方が素晴らしいとはどうしても思えないけど。。
難しいなぁ。。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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