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Norlys(ノールリース)-日々のあれこれ
Posted by - 2024.11.29,Fri
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Posted by norlys - 2009.06.26,Fri

谷川でアルパインを登った余熱が冷めず、山と渓谷社から出ている「日本のクラシックルート」をぱらぱらと眺めていたら、全国のアルパインルート一覧のページの地域別の項目に「千石嵓」とか「大蛇嵓」という名称を見た。

大台ヶ原の千石嵓には、サマーコレクションという有名なマルチピッチルートがあるという話を以前Tさんに聞いたことがあったっけ。

「千石嵓」「大蛇嵓」と活字の表記が並んでいるところを眺めると、「嵓」という文字がやけに印象的で、そういえば谷川にも「嵓」の付く地名が多いよな~…と。
というよりも、自分は関東の人間なので「嵓」という地名は、上越地方の谷川周辺地域において「岩峰」を指す地域限定の方言だとばかり思っていたのでした。

たとえば、谷川岳山頂から西南方面にある顕著な岩峰の「爼嵓」(まないたぐら)。それに、「一ノ倉」や「仙ノ倉」の「クラ」も「嵓」と同じ音。倉=嵓=クラ=岩峰・断崖絶壁、と。
一方で、「ドウドウノセン」や「マワットノセン」というように、「セン=滝」。
ゆえに「仙ノ倉」は「滝場の(多い)岩峰」という意味なのだと聞いて、なるほどな~と思ったのでした。

「滝(タキ)」という言葉の用例は奈良・平安時代の文書にも見られるそうなので、谷川周辺地域で滝を「セン」と呼ぶのは、河川を「カセン」(「河」は幅の広い流れで、「川」は幅の狭い流れ)と読むように、セン=川、仙=水の流れるところ -> 滝、と変化したのかも。
専門家ではないので、ただの推測ですが。

しかしまぁ、関西でも「嵓」という地名があって、しかもこれまた古くからクライミングエリアとして親しまれている岩場があるなんて…と、なんだか目かウロコ。

まさか偶発的な自然発生による相似とは思えないので、どういう経路を経てこの文字が伝播したのかという点に興味が湧きました。

というわけで、「嵓」という文字について、ちょいと検索。

-------------------------------------
[ ]
異体字 : 巖(異体字)
・音読み
呉音 : ゲン(ゲム)
漢音 : ガン(ガム)
・訓読み
けわ-しい

【くら】【嵓】【蔵】【倉】【鞍】
屏風のようにそびえたつ岩壁。山稜や山腹に露出した大きな岩や岩場。くらは岩の古語。山名や川(谷、沢)名に蔵、倉、鞍 などがつく場合は、露岩や断崖のあるものが多い。

倉・蔵・鞍・座などは当て字で、本当は、峨・嵓・岩などの字をクラと読む。
-------------------------------------

そういえば、「神楽」の語源は「神様が宿るところ」でしたっけ。
神の座 -> かむくら・かみくら -> かぐら -> 神楽、と。

「座」は当て字で、本来は「峨・嵓・岩」なのだとすれば、はるか昔の神話の時代には神様は高い山にお住まいで、なればこそ山は神様の領域で、こうして原始的な山岳信仰が生まれたのかな。
詳しくないのでよくわかりませんが、あれこれ考えるのは面白いです。

また、「稀少地名漢字リスト」に「嵓」の文字が用いられている地名一覧がありました。
-------------------------------------
【嵓】 [JIS第3水準]
SJIS: ──
Unicode: 5D53

[用例]
青森県むつ市川内町 嵓倉山(がんくらやま・自然地名)
青森県むつ市川内町 嵓倉沢(がんくらさわ・自然地名)
山形県西置賜郡小国町大字小玉川 大嵓尾根(だいぐらおね・自然地名)
※「ダイグラ尾根」という表記が多い。
福島県耶麻郡猪苗代町大字若宮 日向嵓(ひなたいわ・自然地名)
福島県南会津郡檜枝岐村 柴安嵓(しあんぐら・自然地名)
福島県南会津郡檜枝岐村 俎嵓(まないたぐら・自然地名)
群馬県利根郡みなかみ町谷川 爼嵓(まないたぐら・自然地名)
※福島県は燧ヶ岳、群馬県は谷川岳。
群馬県利根郡みなかみ町藤原 幽嵓沢(ゆうくらさわ・自然地名)
群馬県利根郡みなかみ町藤原 オキノ嵓沢(おきのくらさわ・自然地名)
群馬県利根郡片品村大字戸倉 字 景鶴山 松嵓高山(まつくらたかやま・自然地名)
新潟県魚沼市下折立 松嵓沢(まつくらさわ・自然地名)
新潟県魚沼市宇津野 巻嵓沢(まきくらざわ・自然地名)
新潟県魚沼市宇津野 前嵓(まえくら・自然地名)
新潟県中魚沼郡津南町大字結東 字 逆巻 大嵓(おおいわ・自然地名)
長野県下水内郡栄村大字堺 赤嵓(あかくら・自然地名)
長野県下水内郡栄村大字堺 赤嵓沢(あかくらさわ・自然地名)
長野県下水内郡栄村大字堺 赤嵓ノ肩(あかくらのかた・自然地名)
長野県下水内郡栄村大字堺 白嵓(しろくら・自然地名)
長野県下水内郡栄村大字堺 白嵓沢(しろくらさわ・自然地名)
長野県下水内郡栄村大字堺 箱嵓沢(はこいわさわ・自然地名)
※マピオンでは「箱嵒沢」。
三重県多気郡大台町岩井 天狗嵓(てんぐぐら・自然地名)
三重県多気郡大台町大杉 大日嵓(だいにちぐら・自然地名)
三重県多気郡大台町大杉 平等嵓(びょうどうぐら・自然地名)
奈良県吉野郡上北山村大字小橡 蒸籠嵓(せいろぐら・自然地名)
奈良県吉野郡上北山村大字小橡 千石嵓(せんごくぐら・自然地名)
奈良県吉野郡上北山村大字小橡 大蛇嵓(だいじゃぐら・自然地名)
島根県大田市仁摩町大国 竜嵓山(りゅうがんざん・自然地名)
岡山県苫田郡鏡野町養野 泉嵓神社(いずみいわじんじゃ・神社名称)
和歌山県西牟婁郡白浜町 嵓屋峠(いわやとうげ)
  [参考:平成19年度白浜町上水道水質検査計画書(3ページ)]
和歌山県西牟婁郡白浜町 嵓上(がんじょう)
  [参考:平成19年度白浜町上水道水質検査計画書(3ページ)]
和歌山県日高郡印南町古井 古井嵓上神社(ふるいいわがみじんじゃ・神社名称)
-------------------------------------

こうしてみると、「嵓」の字が地名に用いられている地域分布はそれほど多くなく、かなり偏っているような印象。
圧倒的に、大台ケ原周辺と谷川周辺が多いです。
同じクラでも「倉」という字を当てている地名なら、全国的にたくさんありそうだけど。

南魚沼・桧枝岐・湯檜曽周辺には平家の落人伝説が伝えられていますが、その昔に奈良と三重の境にある大台ケ原辺りから東に流れて来た人が「嵓=クラ」という言葉をもたらしたのかなぁ。。なんて勝手に空想。

また、島根、岡山、和歌山に残る「嵓」は読み方が「クラ」ではなく、まさに「岩」。それに自然地名ではなくて神社の名称が多いので、このあたりでは大台ケ原よりももっと古い時代に「嵓」という文字が伝わったのかも。。島根あたりでもっと「クラ」読みが多ければ、出雲神話の時代まで遡れそうなんだけど。。
なーんて勝手に妄想。

しかしまぁ、青森で読みが「ガンクラ」になるのはどうしてなんだぜ? と思うけど、「岩倉」という地名は結構全国に多くて、しかも天照大神の神話に結びついている場所だったりする。なにか関連があるかもしれないし、後付かもしれない。どうなんだろう。

たったひとつの「嵓」という文字が、こんなに想像を膨らましてくれるとは面白いもので。。と、思うのでした。

そういえば。
「日本のクラシックルート」の全国アルパインエリア一覧には、なぜか「須美須島」とか「孀婦(そうふ)岩」も挙げられている。過去に登攀記録があったらしい。いったいいつの時代にどんな酔狂なクライマーがこれらの太平洋上にある岩礁でクライミングを行ったのか激しく知りたくてたまらない。

もうほんとにね、クライマーって奴は…(笑)。
アクセスには「船をチャーターしなくてはならない」とかあるけど、いったいどれだけ日数と費用がかかることやら。

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自己紹介:
Norlys(ノールリース)。極光、いわゆるオーロラ。雪の降る季節と雪の降る景色がすき。趣味は編み物。週末は山を散策。

色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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