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Norlys(ノールリース)-日々のあれこれ
Posted by - 2024.05.18,Sat
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Posted by norlys - 2007.10.15,Mon
週末は母親の誕生日祝いということで、デパートでお買い物。
フロアの隅から隅まで縦断してコートを品定め。

ここしばらく衣料品といったら山装備ばかりの自分にとって、生き延びるための機能性を追求するわけではなく、あくまでも着飾ることが主眼の衣装選びというのはちょっと新鮮。

今年の冬物は'60sテイストのファッションが多くてなかなか楽しかったです。
とはいえ、山歩きよりもデパートめぐりのほうがどっと疲れますた。。

両親の家に帰って、すっかり物置と化した自分の部屋から文庫本を2冊だけレスキュー。
須賀敦子の「トリエステの坂道」と、池澤夏樹の「真昼のプリニウス」。
ほかにももって帰りたい本がいくつかあったのですが、さすがに今の住まいは狭すぎるので断念。

「真昼のプリニウス」を最初に読んだのはからかれこれ14年前。あまりに時間が経っているのと、物覚えが悪いのとで、まるで内容を覚えておらず。
最初のページを読み始めてようやく、同じ作者の別の作品「スティル・ライフ」と間違えて手にとったことに気付く始末。まぁいいや。

この小説の中では主人公である火山学者の頼子を通じて、執拗に「物語とはなにか。言葉とはなにか。神話とはなにか」について問います。

ありゃ、そんなストーリーだったっけ。。と思いながら、台所の灯りの下で髪が乾くのを待ちながら一気に読み進めました。
火山学者が主人公ということで、てっきりグスコーブドリの伝記のような全体のための自己犠牲の物語だったかとすっかり勘違いしていた自分に苦笑しつつ。えぇ、全然違います。。

主人公が弟の紹介で広告会社に勤める門田に会うところから、この小説は始まります。

門田は、電話でアクセスした人に、無作為に小さな物語を語るシステム「シェヘラザード」を構想中だという。ところが、それでは集客(=集金)ができないことから、物語+占いを提供するシステムへとさっさと方向を転換してしまう。
無償で密かに一方的に垂れ流されるだけの小さな物語ならまだしも、物語が人の運命を定めるということに主人公はわだかまりを感じ続ける。

冗長で一方的で思索的な、満月の夜が来るたびに彼女に宛ててしたためるという、遠くメキシコの僻地にある遺跡の写真を撮り続けている別れた恋人からの手紙。
友人のあずさと彼女のひとり息子や、浅間山の山麓にある火山観測センターの技師である風間といった実直な人々との会話。
大学の教授や学生たちとの日常的な学術的な会話。
天保三年の浅間山大噴火の手記。手記をしたためた女性との架空の対話。
易を趣味とし、的中率の高さでその筋では有名だという製薬会社の社長との会話。

日常という縦糸に彩りを添える横糸のエピソードたち。少しずつ浮かび上がる内面の文様。
そして、門田との対峙。

「世界そのものなんて、ないんですよ。世界というのはそのまま神話なんです」

「わたしはそうでないものを探してみます」


神話の楔を断ち切って、科学的学究態度を離れ、猫やウサギやプリニウスさえも殺す好奇心の赴くままに行動を起こすラストシーン。

一見安定した現代社会も、足元の薄皮一枚剥がせば、灼熱し混沌としたマグマの塊。
現実と幻想、神話と真理、自然と人間、偶然と必然、正気と狂気、客観と主観、科学的態度と衝動、静と動、正と死、男性と女性。

対立し交錯する事象で成り立つザラザラとした世界をありのままに受け止めて、自分にとって誠実な生き方を模索していきたい…とまぁ、そんな物語です。たぶん。

取り立てて大きな事件はおこらないし、派手なアクションもないし、たいしたロマンスも描かれませんが、緻密な構成と美しい文章で綴られる物語は、秋の夜長の一冊におすすめです。(好き嫌いは分かれるかも、だけど)

それにしても。発刊からすでに14年が経過していてもあまり内容は古びておらず、それだけこの作品が先鋭的だったのか、それとも社会の進歩や技術の成熟は思うよりも歩みが遅いということなのでしょうか。

この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。 世界はきみを入れる容器ではない。 世界ときみは、二本の木が並んで立つように、 どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。

(中略)

大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界とのあいだに連絡をつけること、一歩の距離を置いて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。たとえば、星を見るとかして。


これは、レスキューしそこねた「スティル・ライフ」の冒頭の一節。

高校生時分(青臭い~)にこの文章に出会ってしまったことは良き天の采配だと思います。ささくれた大人になっても、この文章に触れたときのインパクトは鮮明に覚えています。
素敵な物語です。はい。
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自己紹介:
Norlys(ノールリース)。極光、いわゆるオーロラ。雪の降る季節と雪の降る景色がすき。趣味は編み物。週末は山を散策。

色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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