10月の連休の錫杖岳前衛壁クライミングの記録。続きました。
・錫杖岳前衛壁 Day1 アプローチ
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玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なもんです。
そして硝子の開き戸がたって、そこに金文字でこう書いてありました。
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」
「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」
「どうもおかしいぜ。」
「ぼくもおかしいとおもう。」
「沢山の注文というのは、向うがこっちへ注文してるんだよ。」
(宮沢賢治「注文の多い料理店」)
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2011/10/09(日)
Day2:「注文の多い料理店」(5ピッチ、5.9)
朝4時半にセットした目覚ましが鳴るものの、まだ外が薄暗かったので二度寝(このパターン多いです…)。結局5時過ぎにようやく起き出し、朝食を食べて6時20分頃にテン場を後にする。
周囲のテントはぼちぼち動き始めているけれど、人影は薄い。昨日間違えた1ルンゼ押し出しではなく、錫杖沢-北沢沿いに続く樹林の中の明瞭な踏み跡を辿る。
7時ちょうどに「注文の多い料理店」の取り付き地点に到着。幸いなことに誰もいない。後続パーティが現れる気配もない。
空は雲ひとつない快晴。どこまでも青い。岩場は日陰にあり触れる岩は冷たい。谷間を吹き抜ける風も初冬の気配をはらんでいる。
取り付き地点から見上げる岩壁は横に広くすらりと高く圧倒的。装備を整えながらルート取りをあれこれと話し合う。2006年の夏に残置が整備されたとのことで、各ピッチの終了点以外、人工物はほとんど見当たらない。
取り付き地点からルートを見上げる。寒さと期待と緊張でガチガチ。あの陽の当たる場所に早く辿り着きたいと願う。
7時35分に登攀開始。
(グレードはあくまでも主観的な体感です。)
・1P目 Ⅳ :まによん氏リード
「下から見るている分にはどこでも登れそうな階段状のフェイス。実際に登ると結構立っていてランナウトが怖い」と、多数の記録にあるまさにそのとおり。ガバが大きすぎるのか上に砂が乗っていて少し気持ち悪い。凹角からの立ち上がりと大テラスまでのトラバースは怖面白かった。あと、岩が冷たくて体温を奪われた。
オブザベ時には、バンと開けた長いピッチを見てリードしたいな…と欲が湧いたけれど、フォローで良かった。大テラスは広い。
・2P目 Ⅴ- :自分がリード
大テラスの頭上には這松山岳会ルートの残置ピトンが並んでいる。今もこの人工ルートを登る人はいるのだろうか。
トポには「左のランペを登り」とあるけれど、はてランペってなんだろう? と思いながら大テラスから一段下がった左から斜上する大きなフレーク様のクラックを辿る。後で調べたらランペとは「緩傾斜帯」のことだそう。大フレークがバンド状になったところを左に歩くとどん突きに古いピトンがひとつ。ここはこのルートの意義を尊重し残置を無視してピトンの上にカムを決める。枯れ木のない枯れ木テラスを目指してフェイスを直上し、最後の凹角に挟まりワイド登りをして越える。(後でガバがあったと知って愕然(苦笑))
2ピッチ目も意外と悪いとのことだったので、ここを無事に越えたことでかなり安心しました。ほ。
・3P目 5.9 :まによん氏リード
枯れ木テラスのすぐ上にハングしたクラックがあり、その先は見えない。開拓当初はハング右のフェイスから回り込んだとのことだけれど、今はこのハングのクラックに沿って登る人が多いらしい。当時のボルト類は見当たらない。
頭上のクラックにフィストジャムを決め、細かいスタンスを拾っいながら右へ出る。クラックの縁の手が案外手が悪く、ジャミングで乗り込む。その上は傾斜が落ち、快適なレイバックを楽しめるコーナークラック。
3ピッチ目の終了点はボルトがひとつ脱落していたので、まによん氏はカムで蜘蛛の巣のように支点を補強していた。(2009年10月のD-Sukeさんのブログでボルトの施工不良が指摘されていたところでした)
懸垂下降の際は後続パーティがいらっしゃったこともあり、4P目のバンドから一気に2P目の枯れ木テラスまで降りたのでこの支点は使いませんでした。支点の状態についてはすっかり失念していて、偶然ながら幸いでした。
・4P目 Ⅴ :自分がリード
このピッチのために担ぎ上げたキャメロットの5番と共に旅に出る。出だしは見た目ハング気味だけどクラックの中に収まっているので予想外に快適。途中でキャメ5の1号と別れ、2号と再び旅に。夢中になって登っていたら突き当たりとなり、(自分の中では)長いチムニーとの旅が終わったことを知る。ここのアンダー持ちのガバはちょっと乾いた音がして気持ち悪い。右にトラバースしてバンド帯に出て終了。
この頃から陽射しが北沢側フランケにも惜しみなく降り注ぎ、暖かくなった。
・5P目 Ⅴ- :まによん氏リード
バンドの左壁にあるフィンガーとOWからなるダブルクラックを直上。ホールドもスタンスも困らないものの少し細かい。ハイマツ帯を歩いた後、手がかりの乏しい短いスラブを登って終了。それまでのクラックシステムを繋ぐピッチといい、多彩な内容で、さすが「注文の多い」ルートだと感心しきり。
左方カンテの7P(6P)目の終了点に合流。以前は懸垂下降支点として使われていた木が枯れて倒れていました。
一応「注文の多い料理店」のルートはここでお終い。上に続くルートは左方カンテの最終ピッチ。続けて登ろうかどうしようかしばらく思案。見上げると昨日剥がれたというフレークの剥離痕が見え、気持ちが萎える。いずれにせよ、左方カンテは明日登る予定だから今日はここまででいいかなという結論に至る。
3ピッチの懸垂下降で取り付き地点に戻る。12時20分。この日、注文に取り付いたのは自分たちを含めて2組のみ。大人気ルートにも関わらず、タイミングに恵まれて、とても幸運なことに自分たちのペースでのんびり登ることができました。
登攀中のパーティがいらっしゃるので、落石の影響の少ない場所に移動して装備を解除。その場を去るのが名残惜しく、しばらくのんびりと腰を下ろし景色を眺めて時間を過ごす。
これは未だ入門ルートのひとつなのだろうとは思いますが、自分にとっては憧れであり目標だったルートを快適に楽しく登攀することができたことで、かなり浮かれ気味、半ば放心状態。変な脳内物質がわらわら湧いていたのだと思われます。
ずっとそこに留まっていたかったけれど、陽射しがじりじりと暑いくらいになってきたので、途中で岩小屋の見学を交えて錫杖沢出合のテン場に帰還。
贅沢なことに持て余し気味の時間を、河原でお酒を呑みながらまったりと過ごしました。
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2ピッチ目の終了点から。ワイドきたー! と勇み足で飛び込み、アームバーやらヒール&トウやらでもがいて這い上がってしまった(ワイドムーブは不要だったのに…)
3ピッチ目の出だし。核心のハングしたクラック。怖れもあるけれどワクワク感が上回り、割れ目好きで良かったなぁ…と思いました。
4ピッチ目の出だし。挟まっていられるので安心。ワイドも好きで良かったなと思いました。もっともホールドは豊富なのでワイド登りはしていませんが。共に旅をしたデカ紫への愛情が溢れてしまい、最近肌身離さず側に置いています。嘘です。
4ピッチ目の終了点から。眼下の風景は変わりませんが、どんどん高度感が増して気持ちよい。
5ピッチ目を見上げる。結構長いピッチです。ぐんぐん登るのが楽しい(フォローだし(おい
終了点から。正面壁が見えました。今度はあそこに行ってみたい(いつか)。
5ピッチ目、最終ピッチの終了点。左方カンテに合流。昔の記録を見ると懸垂下降支点として使われていた木がひっくり返っていました。岩場を整備してくださった方々に感謝。
3Pの懸垂で取り付き地点まで。登攀を終えて降りてきた頃には陽射しが燦燦と降り注いで明るい岩場に。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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