剱岳・源次郎尾根の記録の続き。
5月4日の夜はさほど冷え込むこともなく、3シーズン用シュラフ+夏シュラフ+軽量シュラフカバーで十分温かったのだけど。。。なんたることか、個人用マットに穴が開いてしまっていて背中が冷えるわ痛いわ。。
1時間おきに目を覚ましては、うつらうつらと眠ることの繰り返し。(´。`);
5月5日(月)、3時半に目覚ましが鳴り、ほんのりだるだるな気分のまま起床。外はまだ薄暗く、星は見えないもののうっすらと雲がたなびいているのみで、風はなし。
少なくとも午前中いっぱいは天気がもつことを祈りつつ、源次郎尾根にアタックすることに。
手早くパワージェルや菓子パンなどを口に入れて朝ごはん。前夜のうちに準備した装備一式を手に剱沢小屋の外トイレへ向かい、トイレを済ませた後、4時半頃に出発。
剱沢の前方にゴマ粒ほどの大きさで先行パーティの姿が一瞬見えるも、どこかに取り付いたのかすぐに姿が見えなくなる。
剱沢を黙々とざくざくと下り、源次郎尾根の出会いに到着したのは5時過ぎ。ここでアイゼンを装着。周囲はすっかり明るい。東の空はほのかに太陽の朱を帯びていて、後立山連峰の山並みがくっきり。山頂よりも高いところに凪いだ雲。
←剱沢を振り返ったところ。
カールが美しいな。でもテン場ははるか遠くだな。。(´Д⊂
まぁ、ここまで来たのだから腹を括って…とは思うものの、なんだか勢いがつかない。気持ちを落ち着かせなくては~としばらく間をおいて、5時半に右ルンゼルートに。
前後に他のパーティの気配はなし。渋滞ができる人気のバリエーションルートとのことだけど、さすがに日程をずらしたおかげでしょか。天気は思わしくないけれど。
いざ尾根の右ルンゼに入ってみれば、新旧いくつものトレースが続いているし、雪もざくざくで登りやすくすっかり楽しくなる。
ぐんぐん直登を続けて、しばらくして後ろを振り返るとなかなかの高度感 →
傾斜が厳しくなってきたところでは、ところどころシュルンドが口を開けているので用心して進む。
ルンゼが狭まるあたりに、左側にある凹角気味の岩壁にとりつくトレースがくっきり。Y君に、あそこから尾根に取り付くのでは? と伝え、ふたりでそちらに向かう。岩に接している雪壁がかなり脆く、いやな感じ。用心して岩に取り付くものの、雪解け水がぽたぽたと染み出していて、さらにいやな感じ。
Y君が先陣を切って凹角の岩場に乗り上げる。ホールドが乏しい上に逆層で難儀している様子。ロープを出すから待っていてということで、しばらく取り付き地点で待機。周囲をしげしげと見渡しても、ハーケンなどの残置物は一切なし。かなり人気のルートらしいのに、なにもないのかなぁ。。とぼんやり思う。
しばらくすると上からロープが伸びてきたので、ハーネスにセットして登り始める。傾斜はさほど厳しくないものの、たしかにホールドが少なくて逆層だし、てかびしょ濡れだし。。手近なハイマツがしっかりと根付いているのがせめてもの救い・・・?
上の潅木帯でビレイをしているY君に合流し、枝尾根の左側の岩と雪の間を少し登ってみるものの、すぐに行き詰まる。左側の逆層フェースはかなりいやらしそうだし、かといって右のハイマツ帯はあまりに枝が絡み合っていて潜り込む余地がなさそうな。。
う~む。。のっけから行き詰まってしまった。。( ̄△ ̄;)
「敗退」の二文字が脳裏を過ぎる。
ここはさっくり諦めて、いったん枝尾根の下まで懸垂下降で降りて、ルンゼをもっと詰めてみましょうか、ということに。
Y君が頑丈そうなハイマツの根に捨て縄をかけてロープをセットしている間、どこかにルートはないものかと目を凝らして上を見渡すと、ハイマツの枝の隙間に空が見える。
尾根ルートへの合流点はどうやら割と近いような。。
決断は二転三転し、やっぱりこのハイマツ帯を抜けてみることに。
Y君が岩場からハイマツに飛びつく格好で、ハイマツ帯のジャングルの中に姿を消して間もなく、行ける、出口が見えるよ、との声。おぉ~。
絡み合った枝の中をどこをどう潜り込んで良いのやら…と思案に暮れつつ、「どうやって登ったの?」とY君に尋ねると「パワープレイで。最初のところは足場がないからひたすら腕力頼みで」との返事。
うげげ。Σ( ̄□ ̄lll)!!
こうなったら進むしかないよな。。と、ハイマツを掴んで入口と思しき場所へトラバース。と、足元がなく、切れ落ちてますがな。て、うわ左手に掴んだハイマツが「腐ってる~」と一瞬ヒヤリ。
頼むから落ちてくれるな自分~と祈りつつ、ひたすらハイマツにしがみついて身体をブッシュに捻じ込み、枝に弾かれないように用心しつつ、とにかく前進あるのみ。えらいアプローチを選んでしまったもので。。。
とほほ(・ω・` )
ごんごんとヘルメットに枝をぶつけつつ、ごそごそとハイマツを掻き分けながら4mほど進むと、どうにかハイマツが切れて人心地をつく。ふう~。
このとき、背後にあたる東の方からゴロゴロと遠雷のような音が。後からY君が言うには、なんでも自分たちが取り付いた岩壁手前の雪壁が崩壊したそうな。あぁこれで誰かが自分たちのトレースを追ってこのルートに入り込んでくることはないだろな…と、妙な安堵感。
ハイマツを掴みつつ雪壁を5mほど登ると、雪の尾根に合流。トレースだ、トレースがあるよ~!!
人跡未踏の雪面に自分たちだけのトレースを描いてこそ?
いや、それはまた別の機会に。。えぇ。(´、丶)ゝ
もうほんと、無事でなによりです。。えぇ。(´、丶)ゝ
雪稜にぽくぽくと続くトレースを辿って少し登り、そして少し下ったコルに出ると、右ルンゼから続く足跡がくっきり。
あぁ~
そういうことだったんだ~
焦らずもう少し右ルンゼを詰めればこんなに素直に合流できたんだー。
てか、右ルンゼからは小さなコル状から合流するってトポに書いてあるじゃん。
反省。。
「焦らず詰めろ、右ルンゼ」
今回の教訓でございます。
変なルートに突っ込ませて、ほんと申し訳ない。
それにしても。あの凹角に続いていたトレースの人はいったいどこに向かったのでしょ。。
往きの足跡のみで、戻った形跡はなかったような気がするのだけど。さてはて。
コルから先はルンゼの末端の岩峰を巻いて、両端の切れ落ちた雪稜歩き。高度感はあるものの、リッジにはばっちりトレースがついているし、踏み抜くような雪庇も特にないので安心。
ぽくぽくと雪の稜線を登り、9時過ぎにI峰に到着。アプローチのハイマツ帯で1時間ほど時間をロスしたものの、トレースが明瞭なのが心強い。
I峰からは360度のパノラマ。お隣の八ツ峰や剱岳山頂や後立山連峰がくっきり。切れ落ちた雪壁の先にII峰が見える。八ツ峰はその名のとおり先鋒が続く尾根。かっこいい。
しかしまぁ、せっかく登ったのになぁ。。下ってまた登り返すのかぁ。。仕方ないけど。切ないす。
I峰からの雪壁を後ろ向きになって慎重に下り、あっという間にコルへ。左に平蔵谷、右に長次郎谷を眺めつつ雪稜を再びぽくぽく歩く。右側に平行する八ツ峰にも人が姿が見える。
リッジを渡り、雪壁や露出した夏道を登り続けることしばし。ところどころ雪が切れていて、雪がぐずぐずだったりシュルンドがあったりするので、注意。
←II峰への雪壁を登っているところ。歩いてきた道のりは遥か眼下。
さて間もなくII峰の末端に。。というところで、三度の雷鳥との遭遇しました。
自分たちの進路の先をひょこひょこと番の雷鳥が歩いていくのを、驚かさないようにゆっくりと着いて行きました。まるで雷鳥に先導されているような感じ。II峰の上部に上がるところで雷鳥たちは空に羽ばたいていきました。
←II峰に続く稜線。雪稜歩きをこれでもか! と満喫。雪の季節もぼちぼちおしまいなので、心ゆくまで味わい尽くしましょ。
バリエーションルートといえども、さすがは人気ルートだけあって、懸垂下降支点はかなり頑丈な鎖が埋め込まれていました。まだそれほど古びていない捨て縄もたくさん。
懸垂下降の支点はこんな感じ→
Y君がロープをセットし、するするっと懸垂下降。
←懸垂下降地点から覗き込んだところ。おそらく夏の方が高度感があるのではないかと。
自分も続いて下降器をセットし、安全を確認した後、懸垂下降。なんだか呆気ないな。(´・ω・`)~
せっかく50mロープを2本担いできたものの、雪がたっぷり残っているおかげでロープ中央(25m地点)のロープマーカーが地面に届いていました。
うう~む。。。これなら60mロープ1本で十分、というか50mロープ1本でも足りたかも。。まぁ、不確定要素をアテにするのは危険かもだしな。
あと。II峰からの懸垂下降の中間支点は錆びたピトン4枚と古いスリンゲが数本。あまりアテにしない方が良さそうな印象。
懸垂下降地点での待ち時間もなければ、後続のパーティもおらず、自分たちのペースで進めるのはうれしい。
本日のハイライトを終えたのでロープをザックにしまい、あとはひたすら剱岳山頂を目指すのみ。
雪壁を迷うことなく登っていくトレースを追いかけるようにして辿り、11時半過ぎに剱岳山頂に到着。
山頂到着直前にちょうど西からの雲に覆われてしまい、日本海方面の展望はなし。残念。
天気が次第に悪化する気配なので、12時に下山開始。
一般ルートで下山するか平蔵谷からシリセードで下るかを、今一度検討の末、天候が悪化する懸念があるので平蔵谷から下ることに。
ちょうど、北方稜線ルートからのパーティが到着されたので、自分たちは平蔵谷から下山する旨を伝えると、平蔵谷へは早月尾根との分岐点からドロップインするとのこと。
分岐点から左の斜面に少し降り、しばらく右にトラバースするとなだらかな斜面が開け、あちらこちらにシリセードの跡が。
一気に斜面を下り…といっても、自分はヘタレなのであまりスピードを上げることができませんでしたが、それでも30分ほどで剱沢出会いに合流。
ベチャ雪のためにすっかりお尻が濡れてしまったうえに、ちょうどぽつぽつと雨が降り始めた中、さても最後のひと仕事。剱沢キャンプ場までの道のりは、覚悟していてもやっぱり遠いなぁ。。(;´Д`)
次第に強まる雨脚と風に濡れそぼちながら、テントに飛び込んだのは午後2時半。
ううう、寒い~。。。
Y君がトイレに立ち寄り小屋にビールを買いに行ってくれている間に、ストーブに火をつけてありったけの乾いた服を着こむも、身体がすっかり冷え切ってしまいました。
なにしろ、濡れた手袋や靴下を絞ると水がぼたぼた。靴の中もぐっしょり。つべた。。
そうこうしているうちに、激しい雨がテントに打ちつけ強風がテントを揺らし始め、気温がぐんぐんと下がり始めました。
いやしかし、嵐が本格的になる前になんとかベースに戻れてよかったなぁ。
そんなわけで、続きはまた今度。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
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