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Norlys(ノールリース)-日々のあれこれ
Posted by - 2025.03.16,Sun
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Posted by norlys - 2009.04.08,Wed
週末は文字通り、岩と雪。
日曜日の山スキーの集合が土曜日の夕方だったので、それまで岩でも登りましょうかということになり、FさんとY氏とともに、土曜日のお昼過ぎまで秋川の天王岩でクライミング。

先週はまったく成果なしだったけれど、今回は「クラックジョイ」(5.9)をFL、「涅槃の風」(5.10b)をRP。
成果といってもほんのささやかなものだけど、まぁそれはそれでうれしい。

午後に車に戻り、圏央道経由で関越道に入り新潟の六日町へ。
先週から休日の高速料金が大幅割引されたこともあり、片道の高速道路の料金は合計で1,350円。
帰りは1,600円でした。つまり、首都圏と新潟を往復するのにひとり1,000円弱。安ッ。
山屋としてはありがたい話だけど、こんなに極端に価格が変動したらどこかで大きな歪が起きそうな気もする。さてはて。。

翌日の日曜日は巻機山に登る予定だったけれど、朝から生憎の雨。いずれ雨は止むという予報でしたが、出発があまり遅くなるとまずいので、朝8時過ぎに奥只見に転進。

1月から3月末まで閉鎖されてしまう豪雪地帯を縫うように走るシルバーラインを抜けて銀山平へ。
1年のうち半分は雪に覆われる奥只見。秘境感たっぷりで大好きです。
新潟県魚沼市が、新潟から尾瀬へのアクセスルートのプロモーションを積極的に展開しており、「尾瀬まで××Km」という道標が点在していました。70Kmとか67Kmとか。遠いなぁ(笑)。1週間くらい自由な時間がとれたら、いつかのんびりと歩いてみたいものですが。。

9時45分半過ぎに銀山平に到着すると、雪壁の脇に車が5、6台停車中。除雪された道路脇の雪壁は白とグレーを交互に積み重ねた断面。今年の雪の記録。

装備を整え10時半前に歩き出し。今回はFさんの山スキー道具をお借りして、自分も初めての山スキー(ありがとうございますm(_"_)m)。
ここも朝は雨が降ったのか、しっとりぼってりと水を含んだ重い雪。やがて少しずつ雲が切れ、青空が覗いてきました。

P4051558_s.JPG当初は柳沢から夏道の尾根伝いに道行山を目指す予定でしたが、雪面に残るトレースに導かれ骨投沢の東からから枝折峠を抜けて大湯温泉に続く国道352号をハイクアップ。

(「骨投沢(こつなぎさわ)」ってすごい名前だよなぁ。。と思って検索したら、伝之助小屋のサイトに由来がありました。江戸時代に栄えた銀鉱山で、銀の不法持出を防ぐために流された風評がもとだというのは面白い)

銀山平森林公園にあるクロカンコースでは競技選手なのか、クロスカントリースキーをしている人たちの姿が見えました。

P4051579_s.JPG国道ならぬ「酷道」のひとつとして挙げられる352号も、山スキーだとなだらかなお散歩道。初めて履いた山スキーの板は、クロカンとアルペン板の中間みたいな印象。雪の上を自由に歩きまわれる開放感。惚れました。

←国道352号のスノーシェッドがちらり。稜線に雪庇。傾斜のキツイところはすでに雪がずたずたでシュルンドが開いていました。





P4051576_s.JPG標高1,000mあたりでヘアピンカーブする国道352号から離れ、明神峠に向かう夏道に合流。風邪気味で体調のすぐれないNさんは一足先に引き返し。

やや痩せた尾根を登って降りて小ピークをトラバースしたりして13時20分に明神峠(標高1,236m)に到着。





P4051595_s.JPG目の前に越後駒ヶ岳のずっしりとした山容。ほれぼれするほど美しく、飽かずに眺めていました。数人の山スキーヤーさんたちが尾根上に見えました。いつか行きたいな。。

周囲を見渡すとどこまでも山山山…。ここはほんとうに山深い場所で人工的な音はもちろん、初春の雪に包まれた季節ということもあって、生き物の声などもまったく聞こえず。駒ヶ岳の山頂付近には雲の塊が流れては消えていくのでおそらく上空は風が強いのだろうけど、標高の低い明神峠は風の音すらせず、無音。

自分たちの会話の声以外は無音。

それでも、頭上にはすっきりとした青空が広がり、明るく眩しい陽射しが降り注いでいて、足元のぐずぐず雪からは随分と大きい雪虫が這い出てきて、新しい季節の始まりのサインに満ちていて、すべてがとても印象的。

しばらくのんびりと休憩した後、いざ下山開始。峠の直下は傾斜があって気持ちいい。けどあっという間に終わってしまう。短い斜面にドロップインしてぐずぐずと雪壁を崩しながら滑る。
国道はアップダウンがあるので滑降というよりも、普通に下山。それでもツボ足よりはスキーの方が断然早いし快適。
来た道を辿り、15時15分に車に戻りました。

お気楽手軽なゲレンデ岩場と、お気楽スノーハイクだったけれど、2日間びっちりで遊んだらすっかりくたくた。。
でも奥只見の深い深い山の中はとても癒されました。

P4051628_s.JPG<おまけ>

道端に転がっていた「雪まくり」。
春の訪れを告げる自然現象。
巻き薔薇みたいでかわいい。


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Posted by norlys - 2009.03.18,Wed
週末は八ヶ岳の中山尾根を登りました。去年の12月に登った赤岳主稜に続いて、今シーズン2回目の冬季バリエーション。

土曜日の朝、温かい雨の降る都内を出発。富士見高原のあたりでも周辺に雪は見当たらず。それでも美濃戸口に向かう途中で、次第に雨がぼたぼたとぼたん雪に変わりました。

水分多めのじっとりと重い湿雪で、こんな中を歩いたらあっという間にぐっしょり濡れてしまうよなぁ…と、いまいち出発するモチが上がらず。
それでもまぁ11時には出ますかね…と、ぼちぼち準備を進めていると、ちょうど赤岳主稜狙いのNさんたちが美濃戸口に到着。Nさん車は4駆なので赤岳山荘まで便乗させてもらうことになる。ラッキー。
Nさんたちが美濃戸口の八ヶ岳山荘で朝ごはんを食べる間しばしお待ちし、ほぼ12時に赤岳山荘の駐車場に到着。1時間の林道歩きを省略できたのはありがたい。

P3141341_s.JPGこれから装備の最終準備を行うというNさんたちパーティと分かれて、自分たちは一足先に12時5分に赤岳山荘から南沢経由で歩き出し。
ゆっくりめのペースでお願いしますと同行のY氏に伝える。登りの間いつも話の途切れないY氏が、今回は不思議なくらい口数が少ない。

標高1800mあたりまでは降ったばかりだというのにぼってりとした雪が靴の裏にダマとなってくっついて気持ち悪い。それでも、高度が上がるにつれて気温が下がり、標高1850mを過ぎたあたりから雪は次第にさらさらとした感触に変わる。風はなく、湿り雪なので降り積もるはしから自重で嵩が減りラッセルにならずに済むのはありがたい。
それにしても、午後遅くには降り止むとの予報だったけど、空は厚い雲に覆われなかなか天候が回復する兆しは見られない。

P3141367_s.JPG間に2回休憩を挟んで15時ちょうどに行者小屋に到着。すでにテントが4、5張りほど。空いているテン場を踏み固めテントを設営していると、自分たちの30分後にNさんたちが到着。この頃から時折雲の間に青空が覗くようになり、阿弥陀岳や赤岳、横岳が見える。中山尾根の取り付き地点は、あの二つの三角形がM字を成す、あのラインだよねと確認。

もう夕方なので夕飯の準備に取り掛かる。赤岳鉱泉からテント場代を徴収しに来た小屋の人が「昨日までは暖かくて雪が氷板になった上に今日は60cmの降雪なので、明日は雪崩に注意してください」と言う。60cmかぁ。結構降ったんだな。。

Nさんたちはひとりずつ個人用テントを担いできたので、自分たちの4人用テントに集まり夕飯。Nさんたち3人がいっぺんに3つのガスを使ったら、テント内があっという間に酸欠状態に。息苦しい。まるで自分が真っ暗な水の底にいて、水面は遥か高みで浮上できないみたいな感じ。

外の雪は未だ降り止まず、あまつさえ風が出てきた。今夜は冷えそう。
「この分だと明日はラッセルかなぁ」とY氏とN氏。「まぁ雪が重いからそれほどではないと思うけど、トレース泥棒狙いでのんびり出発すればいいんじゃないかなぁ」と自分(←姑息。ごめんなさい)。

Nさんたちがたんまりお酒を担ぎ上げてくれたけれど、ほとんど消費することなく散会。少しばかり明日の準備をし、お酒が入ったせいかとにかく眠くてたまらず8時過ぎにさっさと就寝。

シュラフの隙間から冷たい空気が忍び込み、夜中何度か目を覚ます。トイレに行くときにテントの外の温度計を見たらマイナス14度。飛び雪が風に舞っている。雪は止んでいる。

朝4時半に目覚まし時計が鳴る。聞こえないフリをして二度寝を決め込む。4時50分頃にぼちぼち起きる。朝ごはんを食べ、装備を整えていると次第にテントの中が明るくなってくる。

空は雲ひとつないすっきりとした快晴。Nさんたちパーティに声をかけ、6時20分過ぎに出発(当初は6時出発の予定だったので二度寝した分きっちり後にシフトした^^;)。

P3151384_s.JPG行者小屋前から赤岳鉱泉方面に向かい、中山乗越の指導標から樹林帯の尾根筋に入る。すでにくっきりとしたトレースがある。7時過ぎに下部岸壁下に到着。ちょうど1番目の先行パーティが登攀を開始したところだった。2人組が2パーティ。自分たちは3番目。

それまで1ピッチ目の下部岸壁は自分がリードで登るつもりでいたけれど、実際に岩場を眺め、先行パーティの方たちが苦心している様子を見ると「これは無理ぽ」とヒシヒシ。Y氏の「どうする?」という問いに、「すみません、トップをお願いします」と即答。ちょっとだけ気持ちが楽になる。

風が吹き抜ける雪稜上なので、待っている間どんどん体が冷えていく。足指と指先がじんじんする。阿弥陀岳の山頂付近から赤岳の肩にかけては太陽の陽射しが眩しい。この陽の当たらない暗くて冷たい尾根筋に比べたら、あそこは暖かそうでいいなと思う。赤岳主稜の取り付き地点にトラバースする場所にたくさんの人が立ち止まっている様子も見える。

P3151398_s.JPG8時前に2番目のパーティが登りはじめ、自分たちも取り付き地点に移動。立派なペツルのアンカーが2つ。そのうちの1つでセルフビレイをとって待機。
取り付き点から直上して左上するルンゼに合流するルートにもピトンが打ち込まれているけれど、ホールドが乏しくて細かそう。

前のパーティのフォローの方が登り始めたすぐ後に、Y氏が登攀開始。M字の左側の岩場を少し右に回りこみ、順調に左上に上がっていく。

「登ってきていいよー」とコールを受けて、自分も登り始める。右に回りこむところの足元がいまいち悪い。いったん引き返してここかいなと取り付くと、頭上のY氏から「もっと右から」とのアドバイス。左壁をアンダーで抑えて回り込むと、あぁなるほどここか、というルンゼ。傾斜は緩やかだけど、中間部が少しいやらしい。薄く草の付いた凹みにピッケルを刺しても、雪の状態が悪くてちっとも決まらない。岩に氷が張り付いていてつるっとした感触にヒヤり。上部も良い手がないものの、足場は割と良くハイステップで抜ける。あぁ、自分がリードだったら抜けられなかったかもな。。

肩で息をしながらY氏に合流。ぜーはぜーは。「じゃあ、つるべで行く?」とY氏に問われ、ちょ、ちょっと待ったと息を整える時間をもらう。ぜーはぜーは。「出てすぐの木でランナー取るといいよ」とY氏。了解だす。というわけで、左の草付き帯へ踏み出す。ふわ雪の下は腐れ雪で、いまいち心許ない。点在する潅木にしがみつくようにして雪壁を登る。できるだけロープを伸ばし、少し傾斜が緩くなったところで支点をセット。

その先の雪稜はコンテで慎重に歩く。垂れたロープが時々足元にまとわりつく。少し傾斜が強くなったところで再度ロープを出すことにする。冷えた指先に温かい血が戻り、指先の深部が鈍く傷む。

雪稜なのでどうぞと言われ、自分がリード。先ほどと同じく尾根の左側の草付き帯を登る。下部よりは雪が締まっていて少しほっとする。途中の潅木でランニングビレイをとりながらできるだけロープを伸ばす。ふと見上げると尾根の右手に陽射しが当たり明るい。あぁあそこまで行こうと、さらにロープを伸ばす。潅木にビレイ点をセット。上部岩壁の取り付き点が目前に見える。

Y氏が上がって来た後、上部岩壁までそのまま歩く。
10時20分に上部岩壁下部に到着。喉がカラカラなので小休止。陽射しが強く暖かく、表層の雪はみるみる焼結し、てらてらと光る。雪と氷と過冷却水と水と、小さな熱平衡のダイナミックなゆらぎ。

P3151426_s.JPG上部岩壁は見るからに手強そう。先行パーティの登る様子を凝視していたY氏が、「そうかあそこはレイバックか」と気合を入れ、いざ登攀開始。少し上がったところで「しっかり頼むよ」と声がかかる。

するすると順調にロープが出て、Y氏は難なく抜けてしまった。さすが。
自分はフォローなので落ちても大したことはないだろうけど、それでも緊張。。
ここも中間部がいやらしく、ピックは効かずホールドは氷のスローパー。実際に登ると左の足元が切れ落ちていて高度感がある。ランニングビレイの回収を急ぐ。実は足場はそこそこ安定していても、気持ちが先に折れてしまいそう。

上部のややハングした抜け口は、フレークを頼りに体を上げたものの、その先に手がなく焦る。ピックを持ち替えた方がよいと言われるもののピッケルバンドがロープに交差して上手くない。あーもう。どうにかピックを引っ掛け、アイゼンの爪先を岩に載せてハイステップ。上部の岩を掴む。やった。
わぁー。。。恐かった。。

またしてもぜーはぜーはと肩で息をしつつ緊張がまだ解けないうちに「じゃ、つるべで」と言われ、はいよと登り出し。
尾根の左に出て、下に草が透けて見える雪の斜面を登る。少し傾斜が緩み尾根筋を目指して右上すると前方に岩壁が見える。雪の斜面の摩擦が大きくてロープが重いことこの上なし。
手頃な潅木が散在しているけれど、おそらく前方の岩にしっかりしたアンカーがあるのではないかと、そこまでいっぱいにロープを伸ばす。ビンゴ。ペツルのボルトがあった。

P3151439_s.JPG最後の岩場はY氏がリード。先行パーティのトレースを追うように左から回りこむラインをとる。この辺りはピッケルがしっかり決まるし岩のホールドもぬめらないので、少し安心。残置がないらしく、ランニングビレイは顕著なピナクルにスリングをかけたものが続く。なるほどなと思いながらできるだけ素早く回収。

Y氏に合流。岩を回り込むと広いテラス。風はなく、ぽかぽかと陽射しが暖かい。
快適。
ゴジラの背中のような荒々しい赤茶の岩に白い雪がこびり付いていて、真っ青な空とのコントラストが美しい。あぁこんなところを登ってきたんだな…と、ちょっと感慨無量。

ここで少し休憩し、ロープをザックに片付け、バンドを右にトラバースして12時50分前に登山道に合流。
稜線上なのに無風快晴でぽかぽかと暖かい。北アルプス、中央アルプス、南アルプスに富士山もくっきり。絶景かな、絶景かな。

P3151445_s.JPG写真を撮りまくり、お昼ごはんを食べて…と、緊張と疲れからか、顎が疲れていてうまく咀嚼できない自分に笑ってしまう。

13時5分に下山開始。なんだか名残惜しくて、途中何度も中山尾根を振り返る。地蔵尾根を下り、14時10分に行者小屋に戻る。樹林帯に入ると、濃厚なシラビソの香りに満ちる。雪はまだ深いけど、ここももう春なんだなと実感する。

赤岳主稜からNさんたちが戻るのを待ちながらのんびり撤収開始。
Nさんたちが戻ってきたのは午後3時半頃。なんでも赤岳主稜は激混みでNさんたちは6パーティ目だったとか。待ち時間が長くて辛かったけれど、無事に登ることができて最高でした! という晴れ晴れとした表情。

P3151454_s.JPGほんとうに。無事に登れて良かったです。お天気も展望も素晴らしく、最高でした。
途中途中、必死すぎて断片的だけど、核心箇所のホールドやムーブ、必死でロープを伸ばした雪の斜面、振り返って見た周囲の風景を、繰り返し鮮明に思い出します。

とはいえ。核心箇所はすべてフォローで、登らせていただいたというのが正解なので、もっと登れるようにならければ、またはもっとロープワークを素早くするとか荷物を背負えるようにならなければ、次のステップには進めないなぁ。。と反省もしきり。。
Posted by norlys - 2009.03.13,Fri

平標山 ヤカイ沢の山スキーの記録。

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■山域: 上越 平標山 ヤカイ沢滑降
■日程: 2009年3月8日(日)
■メンバー: P1 NUYO(山スキー)、P2 YS(スノーシュー、ツボ足)、P3 FKK(山スキー、スノーシュー)
■天気: 曇りのち晴

日曜日の朝、三国トンネルを抜けた先にある三国小学校脇の道端に駐車。すでに3、4台の車が停車しており、山スキーや山ボードの準備をしているパーティがちらほら。
ここで装備を整え、ビーコンの電源をONにして、7時40分過ぎに歩き出し。

空は雲に覆われているけれど雲は山のはるか高いところにあり、ところどころ青空も覗いて明るく風もない。

P3081209_s.JPG別荘地前の舗装道路にはうっすらと雪が残っているので山スキー組は最初から板を履いてスタート。15分ほど歩くとアスファルトの道が終わり、林道に続く。左手にヤカイ沢の流れを見る。

富岡惣一郎の絵画のような風景。しっとりとぼってりとした雪の白さの中に黒い小川が蛇行し木の幹が黒く点在するやわらかくてあたたかくて懐かしいモノクロームの世界。

足元の林道は雪も少なく、しっかりと踏み跡があって、ツボ足の自分でも山スキー隊に遅れることなくツボツボと歩いていける。
(トレースを壊すのでとても嫌がられたけど^^;)

でも平標山の山頂はここから約1000mの標高差。はて、お山の上はどんな様子だろ…と、木々の上に広がるなだらかな平標山の稜線を見上げながらツボツボと歩く。

P3081218_s.JPG河内沢にかかる橋を渡り、明瞭なトレースを追うように河内沢の右岸に沿って続く林道を外れ、ヤカイ沢の左岸に広がる樹林帯に入る。人気のルートだけあって、この日も相当数のパーティが入っている様子。

しばらくはなだらかな樹林帯歩き。少し広くなったところで、FさんとKさんが弱層テストを行う。前日も含めて前の週はずっと天気が悪かったけれど、雪ではなくて雨が降った模様。このあたりの気温は4度くらい。暖かいというか、むしろ暑い。

標高1350mあたりから枝尾根に取り付く。目前に広がる平標山頂の稜線があまりになだらかなので、前を向いているとあまり急登だという印象は受けないけれど、振り返ってみたら結構急な斜面。どうりで暑いと思った。気温も4度と暖かく、すっかり汗だく。

P3081238_s.JPGぐんぐんと標高を稼ぐ急登に山スキーのシールが効かなくなり、斜面にていったん休憩。お肉と焼きそばを温めてみんなで食べる。斜面の向こうに苗場スキー場が見える。そこそこ距離があるはずなのに、微かにスキー場のアナウンスが聞こえる。

休憩を終え山スキー隊もスキーを外してみなでツボツボと再び歩き出し。Fさんが猛烈なキックステップで雪の斜面に階段をつくって進む。スノーシュー隊2名と自分(わかん)は階段脇を登るものの、結局ツボ足になり階段を登る。快適。ありがとうございます。

枝尾根を詰めて1650m地点に至ると森林限界を抜け、一気に視界が開ける。傾斜も少し緩くなり、稜線も間近に見える。とはいうものの山頂までの標高差はまだ300m+αもあるんだよなぁ。
傾斜が緩く、一面が真っ白の雪原だと距離感が狂う。

P3081255_s.JPG主稜線に至ると、なだらかな白い雪のスロープと空の青さだけが目の前に飛び込む。ふと振り返ると下の方に平標山の家の山荘が見える。

ウィンドクラストの蒼氷に陽射しが当たると、ぬめっとした照り返しが自ら上がった両生類の背中みたいに光る。稜線の雪の付きは薄く、ところどころうっすらと枯れた笹の葉が透けて見える。右手には2年前の夏に遡行した笹穴沢に続く広い斜面が広がっている。

13時過ぎに山頂に到着。少し雲が残るけれど朝よりも天気は回復し、絶景の展望。
仙ノ倉続く稜線の先に谷川岳や上越の山々、山頂に噴煙らしき雲がかかる浅間山、北アルプスの峰々。

P3081266_s.JPG記念写真を撮り(なにしろ人数が多いのでやたら時間がかかる)、風が冷たいので山頂での昼食はやめてさっさと滑降することに決まる。
FさんとNさんが滑走面となる斜面を眺めて、今日のコンディションなら雪崩の心配はなさそうだと判断を下し、Fさんを先頭に滑降開始。

ガリガリのクラストの急斜面を慎重にトラバース。自分はひとりだけショートスキーなので、雪面が緩い箇所では浮力が足りずに止まってしまう。吸い込まれそうな急斜面。場所によってガリガリだったり、モナカだったりして気が抜けない。

P3081283_s.JPG沢の頭をひとつ越えた末端までトラバースし、斜面を滑降。雪は重く、硬いところとやわい所がまだらに入り混じっている。背中にザックを背負っているし板が短いので今ひとつバランスが難しい。午後になって陽射しが当たり、雪の表面だけがずるずると溶けていく。

狭い急斜面を滑り終えると、少しだけなだらかな広いスロープとなり開放感があって気持ちいい。
今日この斜面に入ったパーティは自分たちだけのようで、ほかにシュプールはない。なんというか、ひっそりとした贅沢という気分でうれしい。

斜面の途中で休憩し、お昼ごはんを食べる。陽射しがじりじりと照りつけ雪に反射して暑いくらい。
眼下にヤカイ沢の窪みが黒く左から右に横切っている。休憩を終えて、広いスロープを一気に滑り降り、ヤカイ沢の沢筋を目指して左手の樹林帯に入る。

P3081300_s.JPGまだこのあたりは疎林で、振り返るとまばらな木立の向こうに滑ってきた斜面が見える。下から見上げる斜面はそれほど傾斜を感じさせず、上から見下ろしたときの印象と全然違う。

次第に木々が煩くなる中、雪に覆われたヤカイ沢の窪みを越えて、さらに樹林帯を下る。徐々に周辺にスキーの滑走跡が増え、Fさんの的確なルーファイのお陰で登ったときの道筋の側に至る。

明瞭なスキー跡を辿って斜面を下るとぽんと最初の林道に出た。
そのまま道の端に残るかすかな雪に乗って、三国小学校脇までスキーで戻る。

Posted by norlys - 2009.03.09,Mon
週末は八ヶ岳の予定だったけど、お天気がイマイチそうなので中止。それでも土曜日はお天気がよさそうなので諦め悪く近場の岩場に様子見ででかけ、ぴしょぴしょの岩で取り付きようもなくルートを眺め、さっくりジムに転進。

翌日日曜日はNさんたちの山スキー計画に便乗。
山スキー組のNさんたちと自分たちのツボ足隊は、いちおう別パーティの予定だったけど、雪の層が薄く締まっていたのでツボ足もそれほど足をとられることなく、結局総勢9名という大人数で行動。
幸い1日中お天気に恵まれ、今年は寡雪ということもあって、3月上旬とは思えない暑さと雪のコンディション。

yakai_sawa.JPG登りのルートは赤、滑降ルートは青(最後に登りに使った林道に合流)。

GPSは持っておらず、手書き^^;
途中途中で周囲の風景と地図を確認しながら歩いて滑った記憶を頼りに線を引いたので間違っているところがあるかも。

カメラのデータを吸い出していないので、行動の詳細はまた今度。
Posted by norlys - 2009.02.12,Thu
2月11日(水、祝)は山の会の雪訓。前日夜に都内を出発し、谷川岳天神平ロープウェー駐車場で仮眠。
天気が良ければマチガ沢周辺で、天気が悪かったら土合山の家裏手あたりで実施の予定とのこと。

それにしても雪がない。出発前に谷川周辺の気象や積雪に関する定点観測情報をチェックして予想はしていたけれど、2月だというのに雪が少ない。前週の陽気でかなり融けてしまった様子。みなかみ温泉街周辺などは3月下旬の春山みたい。

朝6時に起床し各自で朝ごはんやら準備やらを進める。週半ばの祝日だからか、スキー客の出足は遅く、広いロビーも割合閑散としている。
7時20分頃に出発。多少雲はかかっているけれど概ね好天の様子なので、マチガ沢方面に向かって歩き出す。

この辺りは多少雪があるものの、積雪はおおむね50cm程度で、吹き溜まりでも1mあるかないか。風の通り道にあたる場所は露出したアスファルトにウィンドクラストの氷がうっすら張り付いている。部分的に除雪したのかと勘違いしてしまった。まさかね。

P2111033_s.JPG マチガ沢出合手前の道幅の広いところにザックをおき、すぐ側の斜面で雪上訓練開始。
マチガ沢出合からは、谷川岳の猫耳がよく見える。岩と雪の稜線が魅惑的。白と黒のコントラスト。振り返ると湯檜曽川を挟んで笠が岳の円錐形の山頂が見える。
空には雲が流れて飛ぶけれど、今すぐ急変する兆しはない。
こんな天気の良い日には雪訓ではなくて、山に登りたいですね~と、たまらずSさんに言う。そうだね、後で一ノ倉沢まで散歩にでも行こうか、とSさんが仰る。

斜面に突入する前にハンドテストを実施。まずは掌、次に腕と力を入れると、表面から5cmくらいのところでさっくり剥がれる。先週の降雪部分。次に肘に力を入れ、それから肩に力を入れると、表面から30cmくらいのところでガバっと剥がれる。おそらく前々週の降雪。剥がれた面を観察すると、はっきりとしたザラメが見てとれる。

Kさんがスノーソーを持ってきてくださったので、続いてコンプレッションテストを試してみる。雪を切り出してショベルのブレードを手で叩く。ブレードが堅いので、手が痛い(笑)。表面から5cmの層はすぐにぶっ飛び、30cm層から約4cm間隔の弱層が3段現れる。バームクーヘンみたい。

「これでなにが分かるんですか?」とSTさんが問う。「確実なことは言えないけれど、雪の状態がどういう具合なのかを知る手がかりですかね」と答える。雪は表面だけ見ても分からないよ~ということが分かればいいのだけど。分かったのかな。

斜面を少し上がり、アイゼンワーク。登る場合、下る場合、トラバースの場合と、それぞれに意識して足を運ぶ。

それから滑落停止の練習。背中にスカイボードという団扇みたいな簡易ソリを挟み込んで斜面を滑り降りながら滑落停止。傾斜が緩いし、雪質の関係もあってさほどスピードは出ないので、なんなく止まる。もうちょっと傾斜の強い場所とかアイスバーンでも試してみたいかも。

その後は支点作成。スノーバー(縦、横)、ピッケル、土嚢、枝を束ねたものの順に雪面に支点を作成し、その強度をみる。最初はプラトーがあまり踏み固められていなかったので呆気なくスノーバーが抜けてしまった。スノーバーは縦埋めよりも横埋めの方が良さそう。ただ、プラトーの状態が同一ではないから単純な比較はできないけど。プラトーがしっかりしていると、枝を束ねた支点にみんなが力をかけてもなかなか抜けなかった。
支点そのものも重要だけど、プラトー作りは本当に重要だと思う。支点からのメインロープの通り道を切り込んでおくことも重要(忘れていました。。)。それにしても、プラトーがぼごっと盛り上がってくるとヒヤヒヤする。

枝を束ねた支点作りの続きで、立ち木の枝から支点をとる方法を試す。クローブヒッチ、ハーフヒッチ、クローブヒッチの束ねを自分が作っていると、Kさんが自分が忘れていたポイントを指摘してくれる。あぁもう、本当にすぐに忘れてしまうよな。。とほほ。それからKさんが、クレムハイストを用いた束ね方を教えてくれる。

お昼少し前、寒気が吹き込んできたのか気温がぐっと下がる。じっとしていると結構寒い。雲が流れては消える。
先ほど滑落停止の練習でできたレーンを活用して、スタンディングアックスビレイの練習。
それからコンテ(大阪方式)のおさらい。去年練習したのに、ちっとも覚えていない。。とほほ。
午前の部の最後として、耐風姿勢の練習をして休憩。

マチガ沢を滑降してきたスノーボードの人たちが下山してきたり、スノーシューやスノーハイクの人たちが通り過ぎる。

午後の部はビーコン捜索の練習。何人かずつに分かれて、雪原に隠したビーコンを捜索し合う。初めてビーコンでの捜索を体験した人たちは、「本当に見つかるんだ~」と驚いていた。
実際には、完全埋没者をビーコンで発見する確率よりも、衣類や身体の一部など埋没者の位置を示す手がかりが明瞭である方が、よほど救助成功率は高いらしい。当然といえば当然かもだけど。
それでも、ビーコンの有無は万が一雪崩に遭った場合の生還率に大きな影響を与える。雪山に入るときになぜビーコンが必要なのかということを理解してもらえたら良いやね。

また、以前の講習会でもお世話になったKさんが、みなに要点を説明してくれるのを聞きながら、自分が結構たくさんのことを忘れているということを認識して愕然としてしまった。。漫然と技術解説書を読み流していても、ちっとも身についてないや。とほほ。

雪面にちょうど手頃な穴が開いたので、Kさんが潜り込んで、プローブで人を差したときの感触を代わる代わる体験する。まさに「ぶにょ」という感じ。う~む。。できれば、実地で体験したくないかも。。
その穴に2名ほど入って埋没体験。埋没者の声が外からどう聞こえるのか(ほとんど聞こえない)、埋没者には外部の声がどう聞こえるのか(方角が判別できないけど、割合はっきり聞こえるらしい)ということを学ぶ。

埋没体験をしたSTさんは、いくら体験とわかっていてもなんだか切ない気分になるらしく、発掘されたときには少し遠い目をしていた気がする。

これにて雪訓は終了~ということで、装備を片付け、荷物をデポしたままみんなで一ノ倉沢まで散歩。
積雪は少なく明瞭な踏み跡もあるし、もとより車道だし、手ぶらなのでたいしたことはないかと思ったけど、厚着のまま歩いていたら次第に汗だく。

一ノ倉沢の出合に到着すると、マチガ沢よりも峻険なラインが前方に広がる。シビレル。。
傾斜が厳しいため雪が付かずに黒い岩盤の露出した衝立岩が、雪景色の中にくっきりと浮かび上がっている。
見れば、足跡が沢の奥に向かって延びている。最近誰かが取り付いたらしい。

夏に見る一ノ倉沢の風景も圧倒的だけれど、冬の眺めはより一層厳しく威厳に満ちている印象。
谷川はアクセス至便で、実際に冬の時期を除いてはここまで車で入ってこれるくらいの場所だけど、その先に広がる風景はなんというか別世界だよなぁ。。とヒシヒシ思う。

マチガ沢への帰り道、急速に雲が広がり、ちらほらと飛び雪が舞い始めた。マチガ沢からはもはや谷川岳は望めなかった。デポしたザックを担いで谷川天神平ロープウェーに戻る。山を降りるほどに天気が良くなり、駐車場に到着する頃には、土合駅周辺には西陽が当たっていた。

近場の温泉で温まり、途中の赤木高原SAで夕飯を食べて解散。

楽しかったです。いかに自分が忘れやすいかしみじみ実感しました。ううう。
みなさまお疲れさまでした。
Posted by norlys - 2009.01.23,Fri

先日、沢の遡行集を読んでいたら、そういえば去年の夏の葛根田の遡行記録を提出していなかったことを思い出した。決して忘れていたわけではないけれど、まぁ延び延びになってしまった。

まだ辛うじて覚えているうちに(と思ったけど、案外忘れていた。うう)記録をまとめてしまえ! と、一気に書いた。疲れた。
会報に提出する内容と同一なので、会の皆様は後日のお楽しみ(?)にどうぞ。
細かい間違いはぜひ寛大な心で見逃してやってほしいのです。。

--------------------
■山域: 葛根田川 北ノ又沢遡行、明通沢下降
■山行年月日: 2008年9月13日~9月15日(前夜発)
■メンバー: Nさん(C.L.、食担)、Y氏、Y君、自分(記)
■コースタイム:
□9月12日 夜都内集合 雫石町に入り仮眠
□9月13日 8:15 滝ノ上温泉駐車場(広い。トイレ、水場有) 沢装備を装着 - 9:00 歩き出し。間もなく葛根田地熱発電所のゲート有- 9:35 舗道が切れ林道となる地点から入渓- 10:08 明通沢(大ベコ沢)出合 - 10:26 ドクロ滝 - 10:42 お函(おかん)のゴルジュ帯通過 - 11:23 大石沢出合、休憩- 11:52 沼ノ沢出合- 12:00 中ノ又沢出合(テン場チェック) - 12:20 葛根田大滝(2段25m)下、左岸を高巻- 12:28 葛根田大滝上 - 13:00 滝ノ又沢出合 - 13:20 二俣、左俣へ 幕営適地を探す 13:55 幕営地着。幕営準備

□9月14日 6:00起床 - 7:45 歩き出し - 8:10 二俣、右又へ - 8:20 20m 滝右岸高巻 - 8:30 8m滝直登 - 9:00 登山道 - 9:18 関東森、休憩 - 10:17 1283m道標、休憩、明通沢への下降点を探して藪漕ぎ - 11:40明通沢支流入渓 - 12:05 4m滝下降 - 12:20 4m滝下降 - 12:35 9m滝下降(右岸懸垂下降) - 12:55 15m滝上(左岸懸垂下降) - 13:30 明通沢本流 - 14:55 コンクリート橋、林道(廃道)歩き - 15:50 林道終点 - 16:25 滝ノ上温泉駐車場

□9月15日 帰京

・記録
「秋の三連休はNさんがきっと東北の沢に遠征するよ」とY氏が言うので心待ちにする。「葛根田に行こうと思う」というNさんの計画に飛びつく。昭文社のエアリアマップを購入し、地形図を準備し、過去の遡行記録をネットで探し、気まぐれな週間天気予報を睨む。

9月12日金曜日の夜に都内を出発。遠方なので日数はかかるが、実質の遡行は1泊2日なので荷物はさほど多くない。外環から東北道に乗り順調に北上。最初はY氏が運転し、福島に入って少ししてからNさんが運転を替わる。飛ぶように車は北に向かうけれど、盛岡までの道のりは遠い。結局、盛岡市内に到着した頃には午前4時近くになっていた。雨が上がったばかりで空気は湿っている。

9月13日(金) 曇りのち晴れのち曇り、午後一時小雨

眠い。とにかく眠い。7時過ぎに起床。周囲は薄い霧に包まれている。今日の予報は曇りのち晴れだけれど、本当に大丈夫だろうか。途中のコンビニで朝食。都内の朝はまだ夏の熱気が残っているけれど、盛岡の朝は空気が凛としている。葛根田発電所を目指して走り出すうちに、霞が晴れて空に青空が覗く。まだ山はもりもりと緑に包まれて夏の気配に満ちている。8時過ぎに滝ノ上温泉登山口の駐車場に到着。川の向こうの斜面に三条ばかり白煙が立ち昇っている。少し異様な光景。ここの駐車場は広く、小綺麗な休憩所がある。木材のタイルが敷き詰められた床は天然のオンドルで室内は暖かい。

沢装備を整え9時に歩き出し。道の右手には滔々と流れる葛根田川。間もなく葛根田地熱発電所の車止めゲートに至り、その先にプラントが続く。大きなパイプが道に沿って走り、プラントからも蒸気が噴出している。アスファルトの地面に触れるとほのかに温かい。葛根田地熱発電所は2008年4月21日に発生した大規模な土砂崩れにより、一部の施設が被害を受けた。道路を塞いだ土砂は撤去されていたが、まだ至る箇所に被災の跡が残っていた。側溝には乳白色の温水が流れ、土中から熱水がごぼごぼと噴出しているところもあった。

やがて右手に最後のプラントを見送ると舗装道路が終わり、砂利がひかれた細い道は背の高い雑草に覆われてしまっていた。左手に流れる葛根田川に下りる踏み跡があったので、ここから入渓する。すぐに小さな堰堤が現れ乗り越す。川幅はのっぺりと広い。葛根田「川」であって「沢」ではないことは重々承知していても、これではいかにも広い。水流は踝下辺り。川幅だけではなく空も広い。なんだか川遊びに来たみたいだ。ぱしゃぱしゃと川の端を進む。時折砂地に先行パーティらしき人の踏み跡を見る。

歩き出しから1時間ほどすると川床が小石からやや薄緑がかった乳白色した凝灰岩の岩盤に変わる。周囲には赤みを帯びた岩壁がそそり立つ。峡谷というほど狭くも高くもない。川だ。川床の岩盤の一部は深く抉れて緑色の淵になっている。ゼリエースのメロン味みたいな色。浅瀬を選んでひたひたと歩くけれど、深い淵があまりに魅惑的でどぼんと飛び込む。まだ気温がさほど上がらず水も冷たい。

右手から赤茶けた明通沢(大ベコ沢)が合流し、しばらくすると特徴的なドクロ滝がやはり右手に現れる。ドクロ滝という呼び名はちと不気味だけれど、実際よく似ている。まるんとした黒灰色の大岩からスダレ状に水が落ちてくる。修行僧ごっこといいながら、みな順番にシャワーを浴びる。ちょうど陽射しが差してきたので、零れる水飛沫がキラキラときれい。

浅瀬をひたひたと歩いたりへつったりしながら先を進む。前後には他のパーティは見当たらない。やがて川幅が狭まりゴルジュの渓相となり、「お函」の通過となる。左岸は切り立っているので、右岸をへつり玄武岩質の岩に乗り上げて越える。淵は暗く深い。水量が多くて水勢が強いときは少し難しいかもしれないが、この日はいたって穏やかな流れだった。お函を過ぎると川床の岩は黄褐色になり、丸みを帯びた小丘となりその合間を白流が流れ落ちていく。再び流れが緩やな河原となったところの左岸に幕営地と思しき焚き火跡があった。大石沢出合だ。ここで大休止。

大石沢出合から先しばらくは割合平凡な沢相となる。礫や小岩の河原と淵のある岩盤が交互に続く。淵の中を覗くと魚影がぴうっと逃げていく。「Y君、今晩のおかずはよろしく」と期待するものの、結局幕営地は岩魚の生息圏を越えて上の場所になった。

川の流れはどこまでもなだらかで穏やかで、時折手元の時計でチェックしてもちっとも標高が上がらない。周囲を見回しても目標となるような大きな頂は見当たらない。高層湿原が点在する丘陵地帯の中を柔らかく蛇行する沢をひっそりひたひたと進む。

お昼過ぎ近くになり、左から沼ノ沢が出合うところを過ぎ、間もなく中ノ又沢出合に至る。ここの出合の左岸下流に幕営跡があったけれど、イマイチ鬱蒼としているのでパス。中ノ又沢と分かれると、いよいよ北ノ又沢となる。

前方に高いところから水を落とす崖のような滝を見て、左曲する川に沿って小滝を越えると葛根田大滝が現れる。それまで滝らしい滝に出会わなかっただけに新鮮。どどどどどと白い水流が落ちる大きな滝壷を持つ2段25mの大滝。左岸の踏み跡はとても明瞭で、小尾根を伝うようにするりと滝上に到着する。滝上は水流に磨かれた花崗岩で、用心しながら下を恐る恐る覗き込む。吸込まれそうだ。この時点で12時半。まぁまぁいいペース…なのかな。ぼちぼちと幕営適地を探しつつ進むことにする。

大滝から30分ほどで滝ノ又沢出合に至る。左手の木々の隙間から滝ノ又沢にかかる顕著な滝が見える。この辺りではぐっと水量が減り、周囲に赤茶けた岩肌が覗く。空はいよいよ広い。ただし、次第に雲がかかってきたようだ。河原の左岸に幕営適地とされる高台があったけれど、残念ながら先行パーティの方たちがすでに幕営準備を進めていた。

830m地点の二俣で左俣に入る。入口は狭く階段状の小滝が少しばかり続き、久しぶりの登攀だなと思った。やがて平坦な台地に上がると水量は一段と減り、川幅もぐんと小さくなりベージュ色の砂礫の上をひっそりと水が滑る穏やかな場所になる。ブナなどの木々の緑が美しい。上がってすぐのところにも幕営跡があったけれど、もっと開放的な場所がいいということでNさんとY氏が連れ立って偵察に出る。Y君と自分はしばらく留守番。たおやかな森の中にいると、全身ずぶ濡れだし完全に沢装備なのに、なんだか沢登りという気がしない。周囲の印象はとても女性的で(まぁ女性にも色々いますけど)、まるでバスケットにサンドイッチとクッキーと、ポットには紅茶を詰めて森の中を散歩してきた感じ。

偵察に出たNさんとY氏が戻ってきたので、共に上流に向かう。川の流れのすぐ側の、古い焚き火跡が残る小さな台地。この時点で午後2時前。早速整地してテントを張り、川の端を塞き止めてビールを冷やし、薪拾いに出る。鈍い雲が降りてきて、時折小雨がぱらつく。それほど寒くはないけれど、焚き火で暖をとるのが待ち遠しい。流れが穏やかということもあってか、付近にはあまり手頃な倒木や流木が見当たらないので、そこそこ遠出をしてせっせと薪を集める。

幕営地の台地の反対側には地層が露頭している。この辺りは新第三記中新世の砂岩とシルト岩と凝灰岩の地層だそうな。なるほど触ってみるとモロモロとしている。

午後4時前から焚き火を始め、まずは定番のウィンナーで乾杯。イカ飯、枝豆、とうもろこしをつまみにお酒が進む。ほどなく炭を集めて、焼き物開始。ししゃもにサバにサンマの味醂干し。それから焼きビーフン。Nさんは申し訳なさそうに「肉を忘れちゃってね~」と言っていたけれど、十分お腹いっぱいになりました。

食べ始めた頃はまだ明るかったけれど、次第に周囲が暗くなり、焚き火の焔だけが赤々と紅い。川面の方からひやっとした空気が流れてくる。それでも焚き火の側は暖かい。葛根田の流れの美しさは癒されるよねぇとしみじみしながらお酒が進み、午後9時前にテントに潜り込んで就寝。前々夜から割と長い行程だったので、みな昏々と眠る。

9月14日(土) 曇りのち晴れ

翌朝は午前6時に起床。朝早い時分はまだ空気が冷たく、いまいち水に入る気持ちになれない。真っ白い灰に覆われた焚き火にふうっと息を吹きかけるとすぐに熾火がぽっと燃え出した。Nさんが朝食の準備を始める。インスタントうどんに乾燥野菜とキムチとお餅を入れたもの。昨日の晩もしこたま食べたけれど、今日は今日でそこそこ長い一日なので朝からもりっと食べる。ぼちぼちとテントを撤収し、幕営地を片付け、沢の支度をしつらえて7時45分に歩き出し。

すでにして水流はすっかり少なく、源流の雰囲気に満ちている。間もなく二俣となり右俣を進む。右に左にと進む道順を覚えておくようにとNさんから言われたけれど、正直よく覚えていない(ごめんなさい)。どうみても登れそうにないのっぺりとした岩肌から水が落ちてくる滝があるばかりで分岐に迷うことはない。やがてどん詰まりという感じで、目前に行く手を塞ぐ20m滝が現れる。泥壁にはまったく手がかりがない。右岸に残る踏み跡を辿り、細い潅木を頼りに落ち口にトラバース。

最後の8m滝は右壁が直登できそうだったのでロープを出さずにそのまま登る。岩の部分は問題ないけれど、泥付きの部分がちょっといやらしい。その先は小さい分岐を左、左、右(たぶん)と歩くとすっかり水が枯れたので、泥壁を登って小尾根に取り付き、たいした藪漕ぎもなく9時ちょうどに登山道に出た。途中で赤布などはまったく見なかった。

明通沢を下降する予定なので、沢装備のまま登山道を歩き出す。登山道もまた沢の流れと同じく平坦でなだらか。途中に何箇所か倒木があり、乗り越したり赤布に従って迂回路を進む。放置された倒木はたいてい巨木なので動かすのが大変なんだろうけど、ここでは倒木を移動させるのではなく登山道を変えるんだな。。と思った。「関東森」と書かれた道標の下で休憩。ダケカンバの白い幹が青空を背景に美しい。登山道脇にはリンドウが可憐な蕾をのぞかせている。

再び歩き出し、緩やかな登り道を歩くと、徐々に周囲を埋める木々の丈が小さくなり、自分の背よりちょっと上になる。遠くにゆるやかな弧を描く丘のような山容が見える。お椀を伏せたようなアスピーテ火山の造型は、真冬の嵐の日に踏み込んだら方向を見失いそうだけれど、緑の豊かな晩夏の季節はどこまでもなだらかで穏やかな風情。

やがて緩い登りを詰めていくと、10時15分過ぎにパッと視界が開け1283m道標の地点に到着。枯れ草が風に揺れる高層湿原。青空を横切る白い雲とか丸い山の連なりとか一面の緑とか枯れ草の色とか、目に見えるものがどれもこれも穏やかで心の底から癒される。たとえその後に結構な藪漕ぎが待っていても、だ。

1283m道標の先を少し歩くものの明通沢への下降点らしき入口は見当たらない。道が左に逸れるあたりで引き返し、いったん道標まで戻って仕切り直し。行ってみよう、というNさんを先頭に、みなコンパスと地図を手に藪の中に身を没する。根曲がり竹の藪は、足元がトラップだらけで苦労する。しばらくするとぱっと目の前が開け、目前に大白森の湿原の台地が見える。もう少し北東方面に向かわなくてはならないのでは…と、磁石を頼りに先を進むけれど、植物は太陽の当たる南に向かって伸びるので、北東方面だとトラップにまともに引っかかる形になりなかなか進めない。それでもNさんが先頭を切って道を拓いていき、みなぴったりと後を付いていく。しばらくして、Nさんが「ちょっと待って」と言って先を急ぎ、すぐに「おーい、降りてきていいよ」という声がして、その方向に進むと小さな水の流れに降りた。明通沢だ。結局、約200mほど進むのに1時間弱かかった。

行く手を阻む藪を漕ぐ必要もなく、沢筋を下っていくのはなんて楽ちんなんだろう~と、うれしくなってどんどん下る。赤いガレた沢は次第に少しずつ枝沢が合わさり水流を増していく。4m滝の左岸を枝を頼りに慎重に下る。落ち口も滝のフェイス全体がまるんとしている。滝を降りると一気に沢幅が広くなる。続けての4m滝も左岸の手がかりを掴みながらクライムダウン。

しばらくゴーロの転がる沢筋を下ると、幕のような9m滝が現れる。立ち木にロープをセットして左岸の岩壁を懸垂下降。北ノ又沢とは沢相が異なり全体的にまるんまるんとしたナメ。明通沢は下降だけではなく、遡行しても面白そう。やがて目の前がすっぱり切れて15m滝上に到着。ロープの長さがぎりぎりなので左岸を少し踏み降りて、立ち木にロープを掛けて懸垂下降。瑞牆の岩場のようなスラブ滝。その先の4m滝もついでに懸垂下降で下りる。

13時半に明通沢本流に合流。左手からどうどうと流れ込む水流は豊富で、一気に沢幅が広くなる。ロープを出すような顕著な滝はもはやなく、水を湛える淵に釜にどぼどぼと飛び込みながらどんどん下る。午後3時少し前に、目の前にコンクリートの橋が現れる。沢の下降はここでお終い。橋の基部伝いに地面に上がり、廃道となった林道を歩く。

橋こそは立派だったけれど、すぐに元林道は鬱蒼と草に覆われる。よく見れば足元に確かに踏み跡はあるけれど、いちいち伸びている藪がうるさい。気付けば沢筋をとっくに離れてうねうねと山中に道は続く。「遺跡がある」とNさんが指差す先を見ると、カーブミラーが植物に埋もれている。なるほど現代の遺跡。ここの林道は環境自然保護のために建設が中止となったらしい。それでもひとたび人の手を離れたら、自然とはこんなにも逞しく復活するものなんだなぁと思う。何度かカーブを曲がると、眼下に葛根田地熱発電所のプラントが見えてくる。あと少し。午後4時前にアスファルト舗装された道に出る。昨日入渓した地点だ。ぐるりと戻ってきた。

4時半に滝ノ上温泉の駐車場に到着。沢装備を解除し、すぐ近くの旅館でお風呂に入る。ここの温泉は白濁した硫黄泉で芯から温まる。温泉の窓から眺める川向こうに立ち昇る白煙が、心なしか昨日よりももくもくと線が太いように見える。あぁそうか、昨日見たばかりなんだ。なんだかもっとずっと長い時間を過ごしたような気がするけど。

この日は盛岡市街に出かけて宴会とし、翌朝早くに出発して帰京。楽しかった。そして癒された。

■Related Entry:
葛根田川 #0 (2008/09/16)

Posted by norlys - 2009.01.19,Mon
週末は谷川岳へ。往復でロープウェーに乗り、天神尾根をトマの耳までピストン。

麓の街は割合穏やかな天気だったそうだけど、山はすっかり雲の中。
ラッセル跡のない新雪の雪道を横殴りの雪風に煽られながら、経験豊富なFさんの的確な指示と、強力なラッセル隊のお陰で無事に登頂できました。

金曜日の夜に都内を出発し、谷川ロープウェー駐車場に到着したのは深夜12時過ぎ。メンバーは総勢7名。駐車場内には幸い他の車が停まっていなかったので、片隅にテントを張って宴会。翌朝の出発はロープウェーの始発待ちなので、普段よりは出発が遅めとはいえ、3リットルの箱ワインやら日本酒やらと続々とお酒が注がれつつ話が盛り上がり、そろそろ寝たほうがいいんじゃないかと気付いたら午前3時。うひゃ。

暖房が効いていて暖かいロープウェー乗り場のロビーに移動すると、そこには登山予定と思しき人たちが死屍累々と眠りについていました。

朝6時に起床。といっても、なんだかみんな眠たげな様子。自分もまた、まだ酔いが抜けきらないというか、洗面所の鏡を見るとまだ顔が紅いのですが。。
7時に始発予定のロープウェーが山頂駅の天候不良のためかすぐには動き出さず、なんだかんだで山頂駅に到着したのは8時ちょうど。

山頂駅は降りしきる雪の中。この辺りはまだ風はそれほどではなく、視界も100m以上あるものの、見渡す限り一面の白、白、白。登山道を示す赤旗をトラロープが繋いでいるけれど、どうやら本日はトレースなし。
登山道脇で弱層チェックのためのハンドテストをしてみる。雪は降ったばかりとはいえ上越ならではのベタ雪で、先週末からどかっと降った割にはしっかりと付いている感じ。「これなら大丈夫でしょう」と雪国出身のKさんが言う。
腰までの雪の中、先行パーティがラッセルして道を拓く後ろを付いていく。

歩き出して間もなく、先頭のKさんがストップ。わかんを付けましょう、ということで、自分を含めてわかんを持参している人たちはごそごそとわかんを装着。わかんはなかなか使う機会がなかったのですが、あると便利なんだということを実感しました。

尾根に上がったところで先行パーティは雪訓のためか休止。その先の道は微かな踏み跡があるのみ。踏み跡はすぐに雪風に吹き消されてしまう。古いトレースを踏み外すとどぼんと埋まるけど、うまく乗ると膝下くらいで止まる。

P1170695_s.JPG10歩ずつ交代でラッセルしようとFさんが声をかけるものの、FさんやKさんやY氏の強力なラッセル隊は、10歩以上進んでも交代せずに道を拓いていく。後になればなるほど踏み跡がしっかりして多少は楽なので、ペースが遅れそうな人は後ろにまわってもらい、パーティからはぐれないように小まめに様子を見ながら先を進む。

細かいアップダウンが続き、下りはいいけど、登りになると途端にラッセルがしんどくなる。歩き出しから40分ほどすると細い尾根が続く。途中で単独行の方を抜く。いよいよ踏み跡がなくなる。
標高が低く樹林帯の中にいる内は比較的風が穏やかだけど、それでもざっと雪煙が舞うと列の最後尾の人の姿が薄ぼんやりとなる。

「いやぁ、今日はコンディションが良いほうだよ! 昔なら胸までのラッセルだったからね。視界も100mくらい見えているし、これなら良いほうだよ、うん」とFさんがみんなを励ます。そうなんだー。
Fさんは、学生時代以来約20年ぶりの冬の谷川だそう。自分は夏にはこの道を歩いたことがあるけれど、冬の状況を知らないのでありがたい。

天神沢の頭を過ぎ、熊穴沢の頭付近になると勾配が急になる。出発前に会の元代表から「雪崩が起きやすい場所なので注意するように」と言われたのはこの辺かなぁ。。と思いながら用心して進む。

P1170698_s.JPG9時45分に熊穴沢の避難小屋に到着。避難小屋といっても、屋根のポールがぽつんと見えているだけ。
自然の中に人工物があると興醒めすることは多いけれど、この瞬間、おそらくはあまり役に立ちそうにない金属パイプが雪中からにょっきりと顔を出しているだけで、なんだか頼もしいと思った。これで今、自分がどこにいるのかはっきりと分かる。(GPSは持っておりませんでして。。ほしいけど、高いけど、命には代えられないけど。。あぁ。。)

避難小屋を過ぎると樹林帯が切れ、あとはひたすら登り坂。地元の山岳会の方たちが設置してくださった赤旗や雪に突き出た岩などの目印ごとに来た道と進む先をコンパスで確認するように、とFさんからアドバイスを受ける。
いよいよ風雪が厳しくなり、時折ホワイトアウト。強靭なラッセル隊は、古いトレースを探し当てながらどんどんと進む。急登に息が切れて少し立ち止まっている間にも少しずつ踏み跡がかき消されていく。
この状況だと、遅れる人がいたらその時点で引き返すことになるかなと思ったけど、幸いみんなついてくる。すごいな。

登りの尾根道が続いている間は道が分かりやすかったけれど、約1700m地点の小コルは一面の雪野原となっていて、自分のような初心者は一瞬ビビル。手元のコンパスをまじまじと眺めなければ、進行方向の感覚が麻痺してしまいそう。

11時15分に天狗の休み場と呼ばれる岩場で小休止。「山頂まで行けるかな…ま、いずれにしても、12時をタイムリミットとして引き返そう」ということに。
風雪が止む気配はないけれど、ときどき視界が開けると道の東側に笹の葉がちんまり顔を出しているのが見える。昔、夏に西黒尾根から登って肩の小屋で休憩していたときに見た一面の熊笹の風景を思い出す。あのとき、夕陽に向かって万太郎山方面に歩く単独行の人の背中がやけにカッコ良かった。西部劇のラストシーンみたいだった。なんとなく。

P1170708_s.JPG肩の小屋の手前は広い雪原になっていて、いよいよFさんが慎重にコンパスで方角を確認する。自分も真似してコンパスをチェックするけれど、正直自分独りだったらこの状況で先に進めたとは露とも思わない。

11時35分、吹雪がうっすらとなった瞬間に、左斜め前方に肩の小屋の姿が見えた。
「小屋だ」と、みんなで小屋に向かう。道標にはびっしりと海老の尻尾が張り付いている。

「これならトマの耳まで行けるかもしれない。さくっと写真だけ撮って下山しよう」とFさんが提案し、そのまま歩き出す。風の影響を受けやすい場所なので、足元がクラスト状態。すぐに小屋に引き返し、アイゼンを装着。

P1170717_s.JPG肩の小屋から先はカリカリのアイスバーン。烈風に吹き飛ばされるので雪の付きは薄く、下草がうっすら透けて見える。風が一層冷たい。指先がじんと冷える。10分もしない内にひょっこりと木の標識にたどり着く。
12時ジャストにトマの耳に到着。

あぁ、こんなに近いんだ。昔、夏に西黒尾根から登ったときには、肩の小屋に到着した時点ですでに遅い時刻だったので、登頂せずにそのまま天神平に降りてしまった。トマの耳なら、拍子抜けするほど、こんなにも近いんだなぁ…と思った。

「あんまり東に寄ると危ないよ~」とFさん。天候がよければマチガ沢のざっくり切れ落ちた絶壁を見れたかもしれないけど、周囲は吹雪の中でなにも見えません。。うん、まぁ、無事に登頂できただけ良かった。ほんとうに良かった。(オキの耳の方が標高は高いのですが、冬山の記録を見るとトマの耳までの場合が多いようなので、これでよしということで。)

P1170706_s.JPG再び肩の小屋に戻り、そのまま即下山開始。
←肩の小屋の前の標識。海老の尻尾が発達中。

「Y君、東に××m進んで。あと10歩くらい。それから南に向かって」とFさんが先頭を歩くY氏に向かって指示を出す。まさに前方に赤旗が現れる。

雪田を過ぎたところでアイゼンをはずし、あとはツボ足で下山。来たときのトレースがあるはずなんだけど、かなり消えている。途中で登ってくる数パーティとすれ違う。偶然すれ違った方が、FさんともKさんとも知り合いだった。FさんとKさんは今回初めての顔合わせだけど、やっぱり山の世界は狭いな。

登るときはあんなにたいへんだったのに降りるのは早いねぇ~…といいつつも、柔らかい新雪はふにゃふにゃで、下山は下山で結構たいへん。

13時に熊穴沢の避難小屋に到着し大休止。ひとまずここまで来ればひと安心。帰りは下るだけ~と思っていたけど最後に細かいアップダウンが続き、少し裏切られた感じ(登りのときの様子をすっかり忘れている自分…)。
14時5分過ぎにロープウェー山頂駅に到着。みんな無事に登って無事に戻ることができてなによりでした。

冬山の場合は天候や積雪状況でコンディションがまるで違ってくるので、どこまで行けるかと同時にどこで引き返すかという判断が難しいということをつくづく実感。自分なぞへタレもいいところなので、多分今回のような強力なメンバーに恵まれずに単独だったらゲレンデの脇をちょろりと歩いて良しとしたんじゃないかと思う。自分が登ったのではなくて、登らせてもらったんだという気持ち。状況やメンバーに。それでも、自分がFさんのような経験を積んでその立場にいたら、どんな判断をするだろう、そんなこともつらつら考えてみる。

ラッセル隊のお陰で(自分もほんのちょっとは踏んだけど、ほんとにほんのちょっぴり。それでも全身汗だくになった)前に進むことができた癖にそんなことを言うのは申し訳ないけど、トレースのない真っ白い雪山はほんとうにきれいで楽しかった。たとえ展望がなくても、そこにいるということだけで楽しかった。寒くてたいへんだけど。

また、登頂できなくてもいいや~と思っていたけれど、登頂できたのはそれはそれでやっぱりうれしい。
みなさまのお陰です。ありがとうございます。

さて翌日は、近場のスキー場でゲレンデスキー。お陰様で、本日は首から背中、腰にかけてバリバリでございま。おまけに、冬山はガッツでGoといわんばかりに食べ過ぎ(+呑み過ぎ)たので、クライミングモードに戻れそうになくて不安。。
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Norlys(ノールリース)。極光、いわゆるオーロラ。雪の降る季節と雪の降る景色がすき。趣味は編み物。週末は山を散策。

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