Norlys(ノールリース)-日々のあれこれ
Posted by norlys - 2014.03.18,Tue
週末(3/15~16)は久しぶりに八ヶ岳で冬季バリエーション。大同心北西稜を登りました。
金曜日の夜に都内を出発し八ヶ岳山荘で仮眠。
朝4時半に起床し、6時に山荘前から歩き出し。長い林道歩きから北沢経由の山道をえっちらおっちらと3時間ちょっとで赤岳鉱泉に到着。
過去に八ヶ岳のメジャーなバリエーションルートを登ったときは、土曜日はアプローチ&偵察のみで日曜日に登攀、という形だったけれど、今回は土曜日の方が天気が安定していそうな予報だったので、土曜日のうちに一気に登る予定で。
9時過ぎに赤岳鉱泉に到着し、テントを設営。
10時半にテン場を出て、大同心稜へ。トレースはばっちりながらも急登がシンドイ…。
時折目の前に現れる大同心の姿がなかなか近づかない。
12時少し前に大同心基部手前の平坦地に到着。ここでハーネスとアイゼンを装着。南陵方面にはしっかりしたトレースがあるものの、裏同心ルンゼから上がる北西稜側はノートレース。
雪が深いので慎重に基部伝いに裏同心ルンゼ側に降り、取り付き手前の灌木でセルフビレイ。
この時点で12時半過ぎ。南陵に比べて取り付きがかなり下になる分、北西稜は7ピッチと長いので急がなくては…。
さてロープを…と、ザックから手を離した瞬間、あぁーっ! という間にザックが滑り落ちて行きました。。なんてこった…(すみませんすみません)。
折角ここまで来たのに、ただでさえ時間が押しているというのに…。すっかり雪のスロープと化した裏同心ルンゼを下降していくと、裏同心ルンゼの最後の滝下にザックが転がっていました。裏同心ルンゼがほぼ完全に雪に埋もれ、もはや登る人が誰もいない時期だったのは不幸中の幸いでした。。(すみませんすみません)。
今一度登り返し、当初の灌木に辿り着いて登攀準備を仕切り直し。この時点で13時半過ぎ。
ここのところめっきり日が長くなってきたとはいえ、北西稜を登りきることは難しいだろうということで、時間を見ながら行けるところまで行き、タイムアップする前に切り上げる予定にて登攀開始。
1ピッチ目 (25m Ⅳ & 25m Ⅰ)
過去の記録で拝見した顕著な小ピナクルが目の前にあり、あぁこれが北西稜の1ピッチ目か…と、感慨深く。以前から北西稜は憧れのルートで、過去に裏同心ルンゼを登り大同心稜に上がる度に目で壁を追うもいまいち確信に至らず…だったのだけど、今回はきっちりとラインが見えました。リードを申し出て、登らせてもらいました(ありがとうございます)。
取り付き地点が雪で上がっているためか、幸いなことにそれほど長さも高さも感じない。けれど、いざ取付いてみると、見た目より悪い…というのはよくある話(苦笑)。悪さの原因は主に岩のボロさと支点の取りづらさ。今の時期は岩ごと凍結しているのでそれなりにしっかりしているのだろうけれど、全面浮石ぽく、うっかり引っ張ったらアウトという感じ。
バンド伝いに左に進むと古いピトンが1つ。そこから階段状の小ルンゼに入る手前で赤キャメをセット。でもこの岩質ではフォールしたら岩ごと落ちそうだな…と思いつつ。
岩の表面にはべったり氷が張り付いていて、手袋で掴もうにも滑るので終始ダブルバイルで登攀。
ピナクルの脇を抜けると、裏同心ルンゼのどんつきの涸滝上の雪原。右手にのっぺりと北壁が立ちはだかる。
ピナクル脇下に凍りついた古いスリングがあったので、よしこれで支点を…と掘り出したら根本の曲がったピトンがぷら~ん。氷がへばりついていてスリングを留めている支点の状況が確認できない。見回しても他に残置はなく、スリングを巻こうにもよさげな岩角もない。諦めて北壁沿いに少し下る。途中でロープがいっぱいになったのでノブ状の岩にスリングを引っ掛けて頼りない支点を工作。
空は快晴。大同心基部ではほぼ無風だったものの、一段上がると北西の風に吹かれる。ただ、風はそれほど強くはない。
2ピッチ目 (70m Ⅱ)
まに氏リード。岩場の形状からコールが届かないのでロープがいっぱいになったところで支点を回収し歩きはじめる。北壁の末端から右に回り込むと、ところどころに露岩のある傾斜の緩い雪原状。北壁側なので陽射しはないものの、風の影響も少ないのか、1ピッチ目(正面壁側)の岩には至る所にエビの尻尾が張り付いていたのに、こちらはそうでもない。
前方には岩壁が待ち構えている。なるべく右手寄りを歩き、しっかりとした残置の終了点へ。
背後には硫黄岳の山頂と、稜線上の登山道のロープが見える。稜線上を歩く人の姿は見当たらず。岩場周辺にも自分達以外誰もいない。鉱泉周辺はあれほど人が多かったのに、ここは白い雪と黒い岩とまばらな灌木と青空だけの世界。
ともあれ、ここで登攀を終えても取付きまでは降りられないので、陽射しの当たっている右手の正面壁側を目指すことに。
3ピッチ目 (30m Ⅲ)
自分がリード。一段上がり、草付の多い斜面を弱点を選びつつ右上気味に上がる。右手のピナクルにロープが回してあり、下降点にできそうだと目星をつける。
概して傾斜は緩いのでノーピンでも問題ないとはいえ、そろそろランニングビレイが欲しいなぁ…と思う頃に、ペツルのハンガーがひとつ。
さらに登っていくと、回されたロープは年季が入っているものの太く、ボルトのしっかりとした終了点があり、登攀終了。
ここからなら懸垂下降で下まで降りられるかな…と相談しつつ、目の前の岩壁を眺めているうちに、「あぁ、ここ登りたいな」という思いが募る。この時点で15時40分。
4ピッチ目 (25m Ⅴ-)
自分がリード。「垂壁に近い傾斜のある凹角、上部はランナウト」ということで大同心北西稜の一つ目の核心ピッチ。見えている範囲では中間部まで確かにそれなりに立っているけれど、浅い凹角沿いならば露出感も少なそう。なにより、登るならここしかないでしょう、と弱点がクリアでルーファイに迷わなそう。
緊張感いっぱいで登攀開始。ダブルアックスで凍った草付を刺したり岩角に引っ掛けたりしながらテスティングを繰り返し、慎重に足を上げ、じりじりと登る。スタンスには困ることなくステミング気味に足を開くことができるのでさほど傾斜は感じない。ドライツーリングみたい。今シーズンはドライツーリングのトレーニングをしておいてよかったなぁ…と、しみじみ。
このピッチ、案外カムが効くらしいとのことだけど、支点を取れそうな場所がないなぁ…と思いながらじりじりと登ると要所要所にペツルのハンガーボルトがあり、その都度安堵。それなりにランナウトはするけれど(確かにA0では登れない)、欲しいところに支点があるという感じ。ボルトを打った方のセンスに脱帽。
中間部分手前でクラックにリンクカムの紫をセット。この先は傾斜が落ちるので、大丈夫。でも慎重に、慎重に…と自分に言い聞かせる。
最後のボルトはハンガーがなかったのでナッツのワイヤーをセット。すぐ上にピカピカのリングボルトがひとつ。
この辺りから一手出すごとに「ふぉっ」とか「ふぁっ」とか変な声が出てしまい、立派な終了点に到着したときには珍しく咆えてました。嬉しかったです。出し切りました。
ここから1ピッチ降りて、3ピッチ目の終了点から懸垂下降で…とも考えたけれど、目の前にはちょっとしたギャップがあるのみで、その上に雪稜が続いているらしい様子を見て、残り3ピッチのうち難しいのは最後のワンピッチだけならば登り切れるかも…と、残業を覚悟。16時40分、フォローで登ってきたまに氏を迎え、「上まで行けるんじゃないかな?」と言うと「そう言うと思った」との返事。
正面壁側に出ると風の影響が強く、防寒着を着込んでビレイ。
5ピッチ目 (45m Ⅳ)
まに氏リード。目の前の壁が階段状なのでこちらからでも登れそうだったけれど、右の正面壁に回り込んだところにリングボルトがあるとのことで、凹角から登攀。
するすると登り、やがて上部の灌木が見えている辺りに到達。
ロープが引かれているのを確認し、自分も登攀開始。4ピッチ目で出し切ってしまったので尽きているのか、出だしが案外悪くてびびる。傾斜がなくなると灌木交じりの雪稜に。
6ピッチ目 (80m Ⅱ)
コンテで雪稜歩き。灌木を掴んでラッセル気味に歩く。小さな痩せ尾根を越えると目の前には大同心のドーム。背後には山陰に沈みゆく夕陽。麓の街に明かりが灯っている。木々も雪も岩も夕陽に染まってオレンジ色。幻想的。
と、のんびりはしておられず、登攀前にヘッドランプをヘルメットに装着。
7ピッチ目 (30m Ⅴ+)
まに氏リード。大同心のドームに顕著なクラックシステムがあり、最初にここに至りこのクラックを見た人はさぞ嬉しかっただろうな…と思った。
「時間がないからA0で」とハンガーにヌンチャクを掛けてぐいっと上がる。その上のチムニー状クラックはさっくり抜けたらしく(ビレイ点からは見えない)、「あぁもうこれで終わりだと思う」と言う声が聞こえてくる。つるつるとロープが伸びてビレイ解除のコール。一番の核心ピッチの筈なのに、あっという間でした。さすが。
自分もフリーには拘らずちゃっかりA0でフォロー。すっかり日は陰り、周囲が暗くて残念ながらスタンスがよく見えない。1つ目のクラックは奥にハンドジャムがバチ効きで手袋をしていても痛いくらい。それにしても結構被っているし、手を離したバイルが岩溝に引っ掛かりそうでモタモタ…。
2つ目のチムニーはワイドっぽく登る感じで、防寒着として一番上に中綿入りジャケットを着込んだ自分は「うぅウェアが岩に擦れる…」とヒヤリ。
その上は特に問題なく少しばかり岩場を歩くと、前方に煌々と明るい丸い光が。「ヘッデン明るいなぁ…」と思ったら、まに氏の背後の稜線から登ったほぼ満月のお月様でした。
大きな岩角にスリングを巻いて支点としたまに氏が晴れやかな顔で「急いだからA0しちゃったけど、時間があったらフリーで抜けられたなぁ」と。さすが。
自分がザックを落とすというアクシデントさえ起こさなければ…と猛反省。すみません…。
18時45分に大同心の頭に到着。握手を交わしてロープを解除。
空の星を間引くほどに月明かりが明るく雪面を照らす。風も夕方よりは収まり気味。
あぁ、登れてよかったなぁ。。(しみじみ)
大同心の頭に来たのは初めてなので下降路を探さなくては…、とコル方面に歩くと、大同心南陵を下降したパーティのトレースに合流。肩のところまで見に行っても支点はなく、雪のルンゼを10mほど降りたところに懸垂下降点を発見。
大同心基部の南陵側から大同心稜に歩き、今日装備を付けた平坦地に戻ると、どっと安堵感に包まれました。
さて、あとは大同心稜を下ってテン場に戻り、小屋でビールを買って乾杯だ~。と、歩きはじめると、どうにもこうにも足がヨレヨレ。今朝6時から動きっぱなしなのと、登攀を終えた疲労感がどっと押し寄せて、大同心稜ってこんなに長かったっけ? 状態。
20時半にテン場に辿り着き、ヨレヨレとザックを降ろしアイゼンとハーネスを外して小屋でビールを購入。テントでプシュと祝杯を上げ、明日はもう寝坊して何もしないぞーとのんびりを決め込みました。
大同心北西稜は以前から気になっていて、そのために、自分もまに氏もかなり前にイボイノシシを2本ずつ買い揃えたのでした(結局使う場面がなかった…)。
いわく「概して脆いが大同心ではもっとも容易なルートである(登山大系より引用)」とか、いわく「フリーで登れるルート。しかし恐らく八ヶ岳の中で最も難しいルートのひとつ(山岳ガイドのミキヤツさんの紹介文より引用)」とか、「ビレイ支点以外は残置支点も少なく、難しく、危険なルート(岳人2013年1月号より引用)」とかあり、いったいどのくらいの難易度なのか想像することが困難でした(夏はボロボロながらも冬よりは易しい様子)。
果たして今の自分たちで登れるだろうか…と思いながらも、登攀を終えてみれば、コンディションも良く、今まで山や岩やアイスで経験してきた色々なことが生かされた感じで「楽しかったなぁ…」という一言に尽きます。
惜しむらくは、もう少し自分が早く歩くことができ、ザックを落とすこともなく、最終ピッチをフリーでトライするだけの十分な時間が取れればよかったのですが…(スミマセンスミマセン)。
ありがとうございました。(ぷしゅ
※ルートの長さとグレードは自分なりの体感です。あまりアテにならないかもです。
金曜日の夜に都内を出発し八ヶ岳山荘で仮眠。
朝4時半に起床し、6時に山荘前から歩き出し。長い林道歩きから北沢経由の山道をえっちらおっちらと3時間ちょっとで赤岳鉱泉に到着。
過去に八ヶ岳のメジャーなバリエーションルートを登ったときは、土曜日はアプローチ&偵察のみで日曜日に登攀、という形だったけれど、今回は土曜日の方が天気が安定していそうな予報だったので、土曜日のうちに一気に登る予定で。
9時過ぎに赤岳鉱泉に到着し、テントを設営。
10時半にテン場を出て、大同心稜へ。トレースはばっちりながらも急登がシンドイ…。
時折目の前に現れる大同心の姿がなかなか近づかない。
12時少し前に大同心基部手前の平坦地に到着。ここでハーネスとアイゼンを装着。南陵方面にはしっかりしたトレースがあるものの、裏同心ルンゼから上がる北西稜側はノートレース。
雪が深いので慎重に基部伝いに裏同心ルンゼ側に降り、取り付き手前の灌木でセルフビレイ。
この時点で12時半過ぎ。南陵に比べて取り付きがかなり下になる分、北西稜は7ピッチと長いので急がなくては…。
さてロープを…と、ザックから手を離した瞬間、あぁーっ! という間にザックが滑り落ちて行きました。。なんてこった…(すみませんすみません)。
折角ここまで来たのに、ただでさえ時間が押しているというのに…。すっかり雪のスロープと化した裏同心ルンゼを下降していくと、裏同心ルンゼの最後の滝下にザックが転がっていました。裏同心ルンゼがほぼ完全に雪に埋もれ、もはや登る人が誰もいない時期だったのは不幸中の幸いでした。。(すみませんすみません)。
今一度登り返し、当初の灌木に辿り着いて登攀準備を仕切り直し。この時点で13時半過ぎ。
ここのところめっきり日が長くなってきたとはいえ、北西稜を登りきることは難しいだろうということで、時間を見ながら行けるところまで行き、タイムアップする前に切り上げる予定にて登攀開始。
1ピッチ目 (25m Ⅳ & 25m Ⅰ)
過去の記録で拝見した顕著な小ピナクルが目の前にあり、あぁこれが北西稜の1ピッチ目か…と、感慨深く。以前から北西稜は憧れのルートで、過去に裏同心ルンゼを登り大同心稜に上がる度に目で壁を追うもいまいち確信に至らず…だったのだけど、今回はきっちりとラインが見えました。リードを申し出て、登らせてもらいました(ありがとうございます)。
取り付き地点が雪で上がっているためか、幸いなことにそれほど長さも高さも感じない。けれど、いざ取付いてみると、見た目より悪い…というのはよくある話(苦笑)。悪さの原因は主に岩のボロさと支点の取りづらさ。今の時期は岩ごと凍結しているのでそれなりにしっかりしているのだろうけれど、全面浮石ぽく、うっかり引っ張ったらアウトという感じ。
バンド伝いに左に進むと古いピトンが1つ。そこから階段状の小ルンゼに入る手前で赤キャメをセット。でもこの岩質ではフォールしたら岩ごと落ちそうだな…と思いつつ。
岩の表面にはべったり氷が張り付いていて、手袋で掴もうにも滑るので終始ダブルバイルで登攀。
ピナクルの脇を抜けると、裏同心ルンゼのどんつきの涸滝上の雪原。右手にのっぺりと北壁が立ちはだかる。
ピナクル脇下に凍りついた古いスリングがあったので、よしこれで支点を…と掘り出したら根本の曲がったピトンがぷら~ん。氷がへばりついていてスリングを留めている支点の状況が確認できない。見回しても他に残置はなく、スリングを巻こうにもよさげな岩角もない。諦めて北壁沿いに少し下る。途中でロープがいっぱいになったのでノブ状の岩にスリングを引っ掛けて頼りない支点を工作。
空は快晴。大同心基部ではほぼ無風だったものの、一段上がると北西の風に吹かれる。ただ、風はそれほど強くはない。
2ピッチ目 (70m Ⅱ)
まに氏リード。岩場の形状からコールが届かないのでロープがいっぱいになったところで支点を回収し歩きはじめる。北壁の末端から右に回り込むと、ところどころに露岩のある傾斜の緩い雪原状。北壁側なので陽射しはないものの、風の影響も少ないのか、1ピッチ目(正面壁側)の岩には至る所にエビの尻尾が張り付いていたのに、こちらはそうでもない。
前方には岩壁が待ち構えている。なるべく右手寄りを歩き、しっかりとした残置の終了点へ。
背後には硫黄岳の山頂と、稜線上の登山道のロープが見える。稜線上を歩く人の姿は見当たらず。岩場周辺にも自分達以外誰もいない。鉱泉周辺はあれほど人が多かったのに、ここは白い雪と黒い岩とまばらな灌木と青空だけの世界。
ともあれ、ここで登攀を終えても取付きまでは降りられないので、陽射しの当たっている右手の正面壁側を目指すことに。
3ピッチ目 (30m Ⅲ)
自分がリード。一段上がり、草付の多い斜面を弱点を選びつつ右上気味に上がる。右手のピナクルにロープが回してあり、下降点にできそうだと目星をつける。
概して傾斜は緩いのでノーピンでも問題ないとはいえ、そろそろランニングビレイが欲しいなぁ…と思う頃に、ペツルのハンガーがひとつ。
さらに登っていくと、回されたロープは年季が入っているものの太く、ボルトのしっかりとした終了点があり、登攀終了。
ここからなら懸垂下降で下まで降りられるかな…と相談しつつ、目の前の岩壁を眺めているうちに、「あぁ、ここ登りたいな」という思いが募る。この時点で15時40分。
4ピッチ目 (25m Ⅴ-)
自分がリード。「垂壁に近い傾斜のある凹角、上部はランナウト」ということで大同心北西稜の一つ目の核心ピッチ。見えている範囲では中間部まで確かにそれなりに立っているけれど、浅い凹角沿いならば露出感も少なそう。なにより、登るならここしかないでしょう、と弱点がクリアでルーファイに迷わなそう。
緊張感いっぱいで登攀開始。ダブルアックスで凍った草付を刺したり岩角に引っ掛けたりしながらテスティングを繰り返し、慎重に足を上げ、じりじりと登る。スタンスには困ることなくステミング気味に足を開くことができるのでさほど傾斜は感じない。ドライツーリングみたい。今シーズンはドライツーリングのトレーニングをしておいてよかったなぁ…と、しみじみ。
このピッチ、案外カムが効くらしいとのことだけど、支点を取れそうな場所がないなぁ…と思いながらじりじりと登ると要所要所にペツルのハンガーボルトがあり、その都度安堵。それなりにランナウトはするけれど(確かにA0では登れない)、欲しいところに支点があるという感じ。ボルトを打った方のセンスに脱帽。
中間部分手前でクラックにリンクカムの紫をセット。この先は傾斜が落ちるので、大丈夫。でも慎重に、慎重に…と自分に言い聞かせる。
最後のボルトはハンガーがなかったのでナッツのワイヤーをセット。すぐ上にピカピカのリングボルトがひとつ。
この辺りから一手出すごとに「ふぉっ」とか「ふぁっ」とか変な声が出てしまい、立派な終了点に到着したときには珍しく咆えてました。嬉しかったです。出し切りました。
ここから1ピッチ降りて、3ピッチ目の終了点から懸垂下降で…とも考えたけれど、目の前にはちょっとしたギャップがあるのみで、その上に雪稜が続いているらしい様子を見て、残り3ピッチのうち難しいのは最後のワンピッチだけならば登り切れるかも…と、残業を覚悟。16時40分、フォローで登ってきたまに氏を迎え、「上まで行けるんじゃないかな?」と言うと「そう言うと思った」との返事。
正面壁側に出ると風の影響が強く、防寒着を着込んでビレイ。
5ピッチ目 (45m Ⅳ)
まに氏リード。目の前の壁が階段状なのでこちらからでも登れそうだったけれど、右の正面壁に回り込んだところにリングボルトがあるとのことで、凹角から登攀。
するすると登り、やがて上部の灌木が見えている辺りに到達。
ロープが引かれているのを確認し、自分も登攀開始。4ピッチ目で出し切ってしまったので尽きているのか、出だしが案外悪くてびびる。傾斜がなくなると灌木交じりの雪稜に。
6ピッチ目 (80m Ⅱ)
コンテで雪稜歩き。灌木を掴んでラッセル気味に歩く。小さな痩せ尾根を越えると目の前には大同心のドーム。背後には山陰に沈みゆく夕陽。麓の街に明かりが灯っている。木々も雪も岩も夕陽に染まってオレンジ色。幻想的。
と、のんびりはしておられず、登攀前にヘッドランプをヘルメットに装着。
7ピッチ目 (30m Ⅴ+)
まに氏リード。大同心のドームに顕著なクラックシステムがあり、最初にここに至りこのクラックを見た人はさぞ嬉しかっただろうな…と思った。
「時間がないからA0で」とハンガーにヌンチャクを掛けてぐいっと上がる。その上のチムニー状クラックはさっくり抜けたらしく(ビレイ点からは見えない)、「あぁもうこれで終わりだと思う」と言う声が聞こえてくる。つるつるとロープが伸びてビレイ解除のコール。一番の核心ピッチの筈なのに、あっという間でした。さすが。
自分もフリーには拘らずちゃっかりA0でフォロー。すっかり日は陰り、周囲が暗くて残念ながらスタンスがよく見えない。1つ目のクラックは奥にハンドジャムがバチ効きで手袋をしていても痛いくらい。それにしても結構被っているし、手を離したバイルが岩溝に引っ掛かりそうでモタモタ…。
2つ目のチムニーはワイドっぽく登る感じで、防寒着として一番上に中綿入りジャケットを着込んだ自分は「うぅウェアが岩に擦れる…」とヒヤリ。
その上は特に問題なく少しばかり岩場を歩くと、前方に煌々と明るい丸い光が。「ヘッデン明るいなぁ…」と思ったら、まに氏の背後の稜線から登ったほぼ満月のお月様でした。
大きな岩角にスリングを巻いて支点としたまに氏が晴れやかな顔で「急いだからA0しちゃったけど、時間があったらフリーで抜けられたなぁ」と。さすが。
自分がザックを落とすというアクシデントさえ起こさなければ…と猛反省。すみません…。
18時45分に大同心の頭に到着。握手を交わしてロープを解除。
空の星を間引くほどに月明かりが明るく雪面を照らす。風も夕方よりは収まり気味。
あぁ、登れてよかったなぁ。。(しみじみ)
大同心の頭に来たのは初めてなので下降路を探さなくては…、とコル方面に歩くと、大同心南陵を下降したパーティのトレースに合流。肩のところまで見に行っても支点はなく、雪のルンゼを10mほど降りたところに懸垂下降点を発見。
大同心基部の南陵側から大同心稜に歩き、今日装備を付けた平坦地に戻ると、どっと安堵感に包まれました。
さて、あとは大同心稜を下ってテン場に戻り、小屋でビールを買って乾杯だ~。と、歩きはじめると、どうにもこうにも足がヨレヨレ。今朝6時から動きっぱなしなのと、登攀を終えた疲労感がどっと押し寄せて、大同心稜ってこんなに長かったっけ? 状態。
20時半にテン場に辿り着き、ヨレヨレとザックを降ろしアイゼンとハーネスを外して小屋でビールを購入。テントでプシュと祝杯を上げ、明日はもう寝坊して何もしないぞーとのんびりを決め込みました。
大同心北西稜は以前から気になっていて、そのために、自分もまに氏もかなり前にイボイノシシを2本ずつ買い揃えたのでした(結局使う場面がなかった…)。
いわく「概して脆いが大同心ではもっとも容易なルートである(登山大系より引用)」とか、いわく「フリーで登れるルート。しかし恐らく八ヶ岳の中で最も難しいルートのひとつ(山岳ガイドのミキヤツさんの紹介文より引用)」とか、「ビレイ支点以外は残置支点も少なく、難しく、危険なルート(岳人2013年1月号より引用)」とかあり、いったいどのくらいの難易度なのか想像することが困難でした(夏はボロボロながらも冬よりは易しい様子)。
果たして今の自分たちで登れるだろうか…と思いながらも、登攀を終えてみれば、コンディションも良く、今まで山や岩やアイスで経験してきた色々なことが生かされた感じで「楽しかったなぁ…」という一言に尽きます。
惜しむらくは、もう少し自分が早く歩くことができ、ザックを落とすこともなく、最終ピッチをフリーでトライするだけの十分な時間が取れればよかったのですが…(スミマセンスミマセン)。
ありがとうございました。(ぷしゅ
※ルートの長さとグレードは自分なりの体感です。あまりアテにならないかもです。
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norlys
性別:
非公開
自己紹介:
Norlys(ノールリース)。極光、いわゆるオーロラ。雪の降る季節と雪の降る景色がすき。趣味は編み物。週末は山を散策。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
色々と気になることをメモしたり、グダグダ書いてみたり。山の記録はなるべく参考になりそうなことを…と思いながらも思いついたままに垂れ流し。。
つぶやき。
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